第23話 競争

 なんでこんなことに……カラスは得意げに首をあげるトンビを横目で見ながらくええとため息をつく。

 話はほんの数十分前に遡る。

 

 ほよほよほよー。

 

「おい、カラス。シーズンになった。行かねえか?」


 駅舎に突如やってきたトンビがぶしつけにカラスにそうぐああした。

 おいおいなんだよ……とやる気なく聞いているとトンビの提案は別にして悪くない話だとカラスは思う。

 トンビの情報によると、彼がいつもピクニックに来た人間どもからお弁当の一部を拝借している海岸沿いの公園がいい感じになっているとのこと。

 何やら気候がよく人間どもが行楽日和だとかで公園がいつも以上の賑わいを見せていると言うじゃあないか。

 

 彼は豊富な食料を人間どもが持ってきているから、どっちが多く獲れるか競争しようぜと言っている。

 カラスは競争なんぞにまるで興味はないが、食べ物が溢れているってのは悪い事じゃあないなと考えたわけだ。

 

 そして今に戻る。

 海岸に来たのはいいが……なんでお前らまでいるんだよ!

 枝にはトンビだけでなく、いつの間にかハトとスズメ三連星まで並んでとまっているのだ。

 

「競争の審判は俺たちがやろう。報酬は米粒な」


 三連星の代表である緑が混じったスズメが偉そうに審判を買って出る。


「カラス、勝負だぜ!」


 息まくトンビ。

 

「先輩! 頑張ってくださいね!」


 ハトがキラキラした目でカラスを見やる。

 えー、これって本気で競争するムードだよな……しかし、俺はこの状況を打破してやる。


「ハト、一緒にやろうぜ」

「はい!」


 これにトンビは否を唱えなかったが、勝手に三連星が競争をスタートさせてしまった。

 仕方ねえ、こっちは二羽だ。圧倒的な差をつけてとっとと終わらせるか……カラスはくああと一声鳴く。

 

 ◆◆◆

 

 トンビは人間が手におにぎりやらおかずやらを持った瞬間を狙いそれらを奪い取る。対するカラスとハトはハトがくるっぽくるっぽと持ち前の人を恐れぬ狂気で人間たちの弁当の前で気を引き、その間にカラスがお弁当をつつく。

 トンビは体が大きいだけに一回で獲得できる量は多いが、狙いを定める必要があり一回一回に時間がかかる。

 一方のカラスとハトは絶え間なく食料を奪い続けたのだった。

 

 結果は火を見るよりも明らかで、カラスたちがトンビを引き離していく。

 と、そこへ会いたくない奴がやって来た。

 

「面白そうだな。俺も参加しよう」


 のしのしと風格ある歩き方で奴がカラスへ鋭い眼光を向ける。


「あ、ああ……好きにしろ……」


 面と向かって奴に何も言うことができないカラスは奴へあいまいに言葉を返した。

 

――にゃーん。

 なんと奴は何の対策もせず人間どもの前で鳴く。すると、人間どもがどんどん奴へ食料を差し出すではないか。

 

「まあ、こんなもんだな……」


 奴はくいっと顎をあげむしゃむしゃと人間どもからもらった食料を食べ始めたのだった。

 

「ハト……俺たちも食うか」

「はい……」


 カラスとハトもまた食べ始めると三連星もおこぼれにあずかる。

 

 トンビ? トンビはまだなんか頑張っているようですよ?

 

「お前ら―、何勝手に喰ってんだよーー」


 トンビの声がこだまするが、誰も反応を返すことはなかったのだった。

 

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