第51話 特別編12 注目

 意識が覚醒する。知らない天井だ……なんてことはなく俺は倒れた場所に放置されていた。

 ひ、膝枕くらいしてくれていてもいいのに。


 起き上がり辺りを見渡すが誰もいない。いつも頭の上でうるさいカラスもちょろいんぺたんこ……スレンダー美女ことミオさえどこかに逝っている。


 うん、どこにいるのかだいたい予想はついているだ。

 だって外から大歓声が響いてきているんだもの。きっとコロッセウムで試合が始まったんだと思う。


 水晶のある部屋から出て外に回り観客席に入ると、ミオたちの姿が見えた。

 ハトはいつの間にか元のサイズに戻っており、カラスと一緒にポップコーンを突いている。

 ミオはファーストフード店で出すような紙のコップに入った飲み物を手に持っている様子。コップにはストローまでついているのだから……世界観ぶち壊しったらありゃしねえ。


 いや、あー、でも、いかにファンタジー世界とはいえ、ファーストフードくらいならあってもおかしくないのか?


 俺は深く考えるのをやめ、ミオを挟んでカラスたちと反対側に腰掛ける。


「これから決勝が始まりますよ?」

「そ、そうなんだ……」


 ミオがすまし顔で教えてくれたが、別にそれには興味が無い。むしろ……俺の目線に気がついたミオが自分の持つドリンクを俺に手渡してくれた。


 さっそくいただいてみると、うん、これはコーラだな。定番定番。

 ってええええ。コーラなんぞ作ることができる技術があって何で中世風なんだよおお。

 いや、深くは考えまい。うん。


――うおおおおおお。

 俺がストローを舐め回してやろうかと思った時、大歓声とともに猫と屈強なハゲがフィールドに姿を現した。


「いよいよ、決勝です! 圧倒的な強さを見せた両者! 一撃の猫対ハゲです!」


 司会者あ! ハゲって言うな! もうちょっと何とかできるだろ。

 しかしハゲは両手をあげて歓声に応えている。

 わ、わからん。異世界は分からん。


 試合開始、終了。

 うん、猫パンチ一発で終わった。たぶんこうなんだろうなーと思っていたので特に思うところはない。俺はストローを舐め回すのに忙しいんだ。


「ミオ、飲む?」

「いえ、良一さま。気持ち悪い顔をなさってます」

「あ、うん」


 その日、猫のゲットしたファイトマネーで飲みに行く。


 そこで猫が注目されると思いきや、何故か俺にみんなの目線が。


「お、おい。アレが噂のレベル1だそうだぞ」

「ほんとー? 私ぃー五歳以上でレベル1なんて見たことないんだけどお?」


 し、失礼な!


「おい、レベル1青木、そっちの肉を寄越せ」

「レベル1さん、僕はポップコーンがいいっす!」

「レベル1の良一さま、ビールでよろしいですか?」


 ち、ちくしょううう。

 何だよそれえ。レベル99じゃあなく、何で俺に注目が集まるんだよおお。


 もういいや、面倒になった。


「ミオ、帰る、帰るよ!」


 俺はうなだれながら、いつもの言葉を呟くのだった。

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