第28話 ブランコ
少女はそう言うと、カラスの返事を待たずにトコトコ歩き始める。
対するカラスは少しだけ戸惑うも特に行きたい場所なんてなかったので、彼女の後ろをよちよちとついていった。
歩くこと十分程度。
大きな湖が見えてきた。
おー、ここかーとカラスは心の中でくああする。
「……この近くにブランコと滑り台があるよ……」
「滑り台か、しばらく遊んでないな」
いつも行く公園では、人間の子供たちを枝の上から見下ろしてぐあぐあしてるだけだなとカラスは思い出す。
「……滑る……あ、こっちにしよ?カラスさん……」
少女ははにかみ、ブランコを指差す。
彼女は自身の肩を指差すとカラスへ目を向けた。
ここにとまれってことかな? カラスはふわりと浮かび上がると彼女の肩へ着地する。彼の考えが正しいと証明するかのように、少女はくすりと笑うと彼のくちばしへそっと指を当てた。
しばらくブランコで楽しむ一人と一匹。
「……カラスさん、お名前はなんて言うの……?」
「くあ?」
突然名前を聞かれたものだから、カラスは驚いて変な声を上げてしまう。
ところが、少女は、
「……くあ君ていうの……?」
とのたまうではないか。
「いやいや、違うって!」
「……そう……」
心なしか少女がガッカリしたように思えたカラスは慌てて嘴をパカっと開く。
「俺はカラスだけに、名前は無いんだよ」
「……そうなんだ。ボクはユミ……よろしくね、カラスさん……」
「ユミか。よろしくユミ。俺はカラス」
くあくあと首を回し、彼女の名を呼ぶカラス。
一方ユミはというと、子供っぽく唇に手を当てて何やら思案顔だ。
「……カラスさん、名前、名前つけよ……?」
「俺はカラスだよ。ただのカラスでいいんだ」
「……そうなんだ……でも、ボクはキミが他のカラスと一緒に居てもキミだって分かるから……いいかあ……」
少女はブランコから降りるとカラスの頭を撫でる。
「……また、いつか遊ぼ……カラスさん」
ユミの物言いに何か含むところがあると感じたカラスは彼女に問いかけた。
「何かあるのか?」
「……ずっーと西にある山の中に戻るんだ……今度会う時はそっちに行くね……」
「ふうん、いろいろあるんだな。人間にも」
「……そうかなあ、ユウはそうでもないような……」
ここにはいない人の名前を出し、ユミはコテンと首を傾けた。しかし、肩にはカラスがとまっていたから、彼と頭がコツンする。
「じゃあ、俺もあいつらを迎えに行くよ。ユミも元気でな!また会おう」
「……うん!」
一人と一羽は顔を見合わせ、笑顔になった。
「……カラスさんは変化できないのかな……」
飛び立つカラスの耳にそんな声が聞こえた気がした。
しかし、あいつら一体何しにきたんだよ……カラスは結局ユミに会わずでっかいネズミと一緒に寝てるだけだったハトと奴、そして、来ると言いつつ一度も姿を見せなかった残りの奴らに対し愚痴をこぼす。
まあいい、帰るか。カラスはくああとハトと奴が眠るあの場所へと向かうのだった。
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