第29話  遅い

 「確か……あのでかいネズミはこの辺だったよなあ」とカラスは眼下を見渡しながらバサバサ空を駆ける。


 お、あれは……。


「来たのか、遅かったじゃないか」


 手近な電柱の上に舞い降りたカラスは隣の電線に乗ったトンビへ声をかけた。


「お、おう。少し手間取っちまってな」


 トンビはどこか気恥ずかしそうに言葉を返す。


「さっき別れてしまったんだ。すまんな」

「そうか、別に構わんさ。ここには来れたわけだしな。いいな、この湖」


 トンビは目的が果たせなかったというのに上機嫌だ。そんなトンビにカラスは何でだろうと首を傾けるが、すぐに「なるほど」と納得する。

 ここの湖、お弁当を持った人間が多いんだよな……。きっと新たな餌場の発見にトンビは喜んでいるのだろう。


「んじゃま、ハトを回収して帰るか」

「おう」

「トンビ、帰りは一緒に行こうぜ」

「そ、そうか!? やはり俺がいないとだよな!」


 くあくあと得意気になっているトンビだが、カラスの考えは邪悪だ。

 カラスもハトも帰り道が分からない。トンビはここまで飛んで来たのだから、彼についていけば分かるだろう。因みに、カラスの思考から、トンビをユミに会わすことができなくてすまないという気持ちは微塵もない。


 二羽はおっきなネズミの元へ向かう。そこでは、まだハトと奴が船を漕いでいた。


「よお、戻ったか。その顔だと、会えたんだな……」


 カラスに気がついた奴は首だけをあげニヒルに呟く。

 それに対し、カラスは無言で頷くと奴は首を下げ目を瞑る。


「おい、ハト、起きろ!」

「くええ!」

「やっと起きたか」

「いきなり突くなんて、なんなんすかもう」

「帰るぞ」

「まだにゃーさん寝てますけど……」

「トンビがいるから大丈夫だ」

「そっすか。じゃあ、先に帰りますか!」

「おう」


 こうして三羽は空を飛び、トンビのいつもいる海浜公園まで戻ってくる。行きと異なり帰りは飛んでいるだけにすぐにここまで到着した。


 トンビと別れ、いつもの駅舎の上まで帰還した二羽はくあくあと伸びをする。


「やっぱ、ここが落ち着くよな」

「そうっすね! あ、先輩、なんか置いてます」

「缶詰だな……」

「誰か捨てたんすかねー」


 不思議そうに首を傾けくるっぽーするハトと異なり、カラスはすぐに気がついた。

 あいつも律儀な奴だな。こんなことしてるから、遅れて会えなかったんだよ。

 全く……礼なんていらねえのに。


 カラスは心の中で缶詰を置いた彼へ礼を言うのだった。


「ハト、この缶詰、奴に持ってくか」

「そうすっね! 優しいっす先輩!」

「案内してくれたから、一応な」

「ここで待っておけば、来ますって!」

「そうだな。くああ」

「くえええ」


 二羽は相変わらずあくせく動く人間たちを眺め、大きな欠伸をする。

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