第27話 おっきなネズミ

 明日には着くんじゃなかったのか……カラスは心の中で呟くが、ハトと奴は動きそうにない。


 えっちらおっちらと進んだ先にあったのは別の公園だった。

 なんでこんなとこに……と疑問に思ったカラスは奴に尋ねてみるも彼は一言「昼寝だ」とだけ返す。


 言葉の通り奴は芝生の生い茂る広場で寝そべっている。奴が単独でいるのではなく、おっきくて変な顔をしたフサフサなした体毛を持つネズミの腹の上に奴はいるのだ。。


「おーい」

「こいつが気になるのか?」

「あ、いや」


 そうじゃなくってだなとカラスが突っ込む前に奴が言葉を返す。


「ふん、こいつは枕だ。緊急時には食料になる」

「そ、そうか……」


 根本的なズレを認識したカラスは、奴に強く言ってやろうかと喉元まで言葉が出てきたが、ぐええと飲み込む。

 あまり奴を刺激すると、俺が「緊急時」になってしまうからな……冷や汗をかくカラス。


「先輩ー!僕も休むっす」


 いや、もう休んでるよな! とこちらにも突っ込みを入れたくなるカラス。こいつらのマイペースさときたら……。

 え? ハト? 彼はおっきなネズミのお尻の上でくええと首を揺すっているさ。


 ふううと大きなため息を吐くカラスの耳に変な音が。


――ぐあぐあぐあぐあぐあ


 これは……


――ぐあぐあぐあぐあぐあ


 う、うるせええ!


 カラスの叫び声など聞いちゃいねえぐあぐあ鳴く声がどんどん近くまで来ている。

 彼の想像通りぐあぐあの正体は大量のアヒルたちだった。


――ぐあぐあぐあぐあ


 奴らはおっきなネズミを取り囲むように寝そべり始めたのだ。うるさいのはそのままに。

 寝るときくらい静かにしろよ! とカラスが突っ込もうとした時、彼はあることを思い出す。

 まてよ、こいつらって確か……あの湖でぐあぐあ鳴いてた奴らじゃねえか?

 ならば、確かめてみるか。カラスは翼をはためかせ、空へと飛び立つ。


 空から見たら一目瞭然だった。

 あるある、大きな湖が。カラスはしたり顔でくああと鳴く。

 ならば、あの少女を探すだけだ。しかし、問題がある。


 カラスに人間の顔は区別つかない。背丈は分かるのだが……。

 事ここにきて、重大なことに気がついたカラスの背から冷や汗が流れた。


 うおおお、どうするか。

 焦りながらも、とりあえず落ち着こうと以前彼女と出会った駅の屋根の上に着地するカラス。


 この駅はカラスが拠点にしている都内の駅と違い、人の流れがまばらだ。そう言えば、電車もたまにしか入ってこない気がするとカラスは思う。


 とりあえず、来る人間を観察するか……カラスはじーっと眼下を見下ろすのだった。


 三十分くらいくええとしていると、カラスは眠くなってくる。

 うつらうつらと船をこぐカラス……そこへ、


「……この前会ったカラスさんかな……?」


 と声が。

 くあっと目が覚めたカラスは、くえっと声のした方へ目を向ける。

 すると、そこへお団子頭をした少女がいるではないか。


「お、おお! そうそう、そうだぜ。あのカラスだよ」

「……やっぱり、どうしたの……?」


 会いにきたのだ。それはいい、それはいいんだが、会って何をするのか何が聞きたいかってことはすっかり忘れていたぜ。

 そんな事を考え黙るカラスへ少女はにぱーとした笑顔を向ける。


「……遊ぼ、カラスさん……」

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