第7話 グルメ
「ハト、人間たちには食通って奴らがいるんだよ」
「へー、何なんすかそれ? おいしいんすか?」
「いろんなおいしいものを食べ歩くことを趣味にしてる人みたいだ」
「何だか面白そうっすね!」
「よし、俺たちも食通ってやつをやるか」
カラスはくああと鳴くと、翼をはためかせ駅舎の屋根から飛び立ち、ハトもそれに続いた。
「そんなわけでやってまいりました『動物園』」
「誰に言ってんだ……」
何故かノリノリのハトへ突っ込みを入れるカラスだが、彼の眼光は鋭く光る。
「まだ見ぬ食材を待っていろ!くええ」と彼はくああした。
まず目につけたのはバナナである。
バナナは猿山に房ごと置かれており、カラスたち以外の鳥たちも猿山の外周にある木の上で目を輝かせていた。
「先輩! バナナがおいしそうです」
「待て、ハト。バナナが房ごとあるのが問題なんだ。一つだけなら両足で掴んで持ち去ることはできる」
「どうするんです? 先輩」
「猿が掴んでいるバナナを狙うか……俺たちが房からバナナを一つ取る」
「なるほど!」
「バナナを両側から俺たちで持って引っ張る。行くぞハト!」
「はいっす!」
カラスとハトはくえええと勇壮に鳴くと一息にバナナが沢山ついた房へと舞い降りた。
しかし、これに黙っている猿たちではない。二羽も気が付いていたが何とも思っていなかったのだ……猿山の周囲には彼ら以外の鳥も沢山いたことを。
鳥たちがバナナを取りに行けなかった理由……それは猿たちの警戒網があったからに他ならない。
いかな二羽でも地上では猿たちには苦戦する。
「や、やばい。こいつは罠だ。ハト!」
「は、はいい」
二羽は慌てて飛び立つが、気が動転してカラスの足がハトの翼に絡みつく。
「せ、先輩! くええ」
「ま、待てええ。引っ張るな!」
「せ、先輩が引っ張ってるんですって」
「そ、そうか。足の力を抜いて……ってえええ俺が落ちる落ちる。そのまま飛ぶぞ」
「な、なるほど! さすが先輩っす! パねえっす!」
絡み合ったまま翼を必至ではためかせる二羽。
奇妙な動きをしながらも彼らは猿山の囲いから出ることができた。
「さ、猿ども……なかなかやるじゃあないか」
「先輩、その目……バナナを諦めていませんね?」
「当然じゃねえか。バナナは必ずゲットする!」
「パねえっす! 先輩!」
カラスは自信ありげにくあくあくあと胸を逸らして鳴くと、飛び立つ。
しかし、彼の向かう先は猿山ではなかったのだ。
「そんなわけで、やってきました。ゴリラの檻」
「だから、誰に向かって……」
「先輩、まさか場所を変えるとは、確かにゴリラの檻の中にバナナがありますね!」
「ゴリラは眠っている。楽して取れる方に行った方がいいだろ」
「そこまで考えていたんですね! 先輩!」
ゴリラの檻へ首を回すカラスとハト。
そう、ゴリラの檻に。バナナも見える。
「先輩……どうやって中に入るんですか?」
「帰ろうか」
「はい!」
ゴリラの檻は檻だけに天井に屋根があり、空から侵入することはできなかったのだった。
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