第22話 動物園再び
「先輩、最近動物園に行ってませんね」
「そういえばそうだな。バナナはレストラン裏で手に入るからなあ」
カラスは猿山の猿たちの憎たらしい顔を思い出しくええする。
そんなカラスへハトはくるっぽっぽと首を前後に振りくああした。
「何やら食べ放題の檻が解放されたみたいんですよ」
「ほう。そいつは見に行かねえとな」
「行ってみますか」
「そうだな」
二羽はこの上なく小物臭のする悪い笑顔で顔を見合わせくええと一声。
そんなこんなで彼らはいつもの駅舎から動物園へ向けて飛び立ったのだった。
◆◆◆
「そんなわけでやってまいりました。動物園リバース」
「ハト……言葉間違ってるからな……」
誰に向けて言ってんだよ……といういつもの突っ込みも忘れ、カラスはハトの間違った横文字を指摘する。
しかし、ハトはそんなことをまるで気にした様子もなく件の檻へとカラスを導くのだった。
到着した先は、人間たちが大量に集まっている。柵で囲まれているが、猿山と同じようにオープンスペースになっているため、飛ぶことができるカラスとハトにとっては柵など無いも同然だ。
檻の近くにある木の枝に着陸したカラスとハトはじーっと檻の様子を眺めていた。
「ここっす!」
「ほう、確かに……餌は大量にあるようだが……」
「でしょでしょー」
ハトの言う通り、ここにいる動物はたったの二匹で彼らは食べる速度が遅い。その割に大量に餌が用意されている。
見た感じかなりのんびりしていそうな動物だし、カラスたちが行ったところで妨害されることはないだろう。
ふむ。これならいくらでも奪い取って食べることができる。カラスは首を伸ばしハトを見やる。
「ハト……お前はあれ、食べられるの?」
「いえ……そこまでは考えてませんでした。で、でも、あそこに虫がついていれば……」
虫かよ! 俺は虫が好きじゃないって何度も言ってるじゃねえかとカラスは心中叫ぶが、ハトに言っても三歩で忘れてしまうから無駄だと悟る。
「で、先輩、あの動物なんなんですか?」
ぶしつけにハトがカラスに尋ねた。知らずに来てたのかよという突っ込みをカラスがすることはもちろんない。だってハトだから。
「あれはパンダってんだよ。小さいパンダもいるだろ、人間はあれを見に来てるんだよ。たぶん」
「へー、そうなんですかー。くああ」
「くえええ」
「帰りますか?」
「そうだな……」
パンダの餌である笹は二羽にとって食事にはならない。もっともハトならば笹に付着した虫などを食すことはできるんだろうが、それだったら今止まっている木からでも同じことができる。
わざわざ檻の中に入って笹を奪う必要もない。
ばっさばっさと飛び立った二羽の後ろ姿は心なしか哀愁を漂わせていたという。
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