第44話 特別編5 お泊り
一体なんなんだ、この状況は……。バイトで疲れて家に帰ってみると、喋るカラスたちが部屋を荒らしていた。何を言っているのか俺にも分からないが、悲しいかなこれが現実なのである。
隣人の方の迷惑も顧みず大声で叫んでしまった俺は、何だかスッキリした気持ちになって買ってきたプリンを袋から取り出し……ぷるるーんとすくって口に運ぶ。
うーん、甘くておいしいー!
って待て待て!そうじゃないだろ、俺。
どうすんだよ、これ……。
……んー、まあ、いいか。考えてもどうにかなるもんでもないし、風呂入って寝るか。
って、そうなるわけねえだろおお!
「何一人で遊んでるんだ? 青木」
ベッドの中央に我が物顔で陣取ったカラスからツッコミが入る。
お、お前に言われたくねえ! この原因がー!
と思うも、カラスに人間の常識が分かるわけがなく、言えば言ったで余計に腹が立ちそうだったから、その言葉を飲み込むことにした。
「お前ら、何しに俺の家まで?」
「そうだなあ。食べ物を漁りに……いや、単に暇だったからだ」
「……来るなら来るで、俺の部屋を荒らさないで、おおおい、ハトお! 俺のお宝本になんて事をしてくれてんだよ!」
「これの何が面白いんすか? 僕たち、いつも服なんて着ないんで分からないっす!」
くるっぽーと知性のまるで感じさせない瞳を俺に向けるハト。首を傾げているところが余計に腹が立つ。
お、おい。お前が乱暴に突いている本……俺の一番のお気に入りじゃねえか!
見た目はお気に入りのあの子にどこかしら似ている清楚だけど怜悧な印象を受ける顔……い、いや、お気に入りのあの子の方がもっともっと綺麗なんだけど、うへへ。
そ、それはいい。この本はお気に入りのあの子にどこかしら似ている顔をしているだけでなく、ぼんきゅーぼんーな体型をして自分の腕でたわわなむふふんをむにっとさせて隠している表紙なのだ。
この奇跡のコラボレーション。分かってくれるだろうか。
「ってえええ、おい、猫! 俺のプリンをペロペロすんじゃねえ! っ! おおおい! 前足でペシッとするな! 気に入らないのは分かったから倒すな、倒さないでくれ。俺が食べるものなんだって……」
あ、あ、あー。俺のプリンが。
「暇なのは分かったから、もう充分だろ?」
「せっかくだし、朝までここにいるか」
カラスがとんでもないことをのたまうと、ハトと猫もそれに同意する。
お、俺の家な、ここ。
◆◆◆
そんなわけで朝を迎えました。ベッドはあいつらに占領され、俺は床で寝ることになってしまう。
しかし、今日は休日。
あの子の勤める喫茶店に行くんだーと思うとテンションが上がってきたぞお。
歯を磨き、顔を洗って、髪の毛を整える。
さて、行くか。
「な、何でお前らまで……」
「歩くのと疲れるだろ」
「飛んだらどうなんだよ」
「飛ぶと半端なく疲れるだろ?」
そんな当たり前だという風に言われても困るって、カラスよ。俺はカラスやハトと違って飛べないからな。
えー、俺の両肩には猫とハト。頭の上にはカラスがいる。
すれ違う人に物凄い目で見られるから、やめてくれないかな。
しかし、それでも、それでもだ。
俺は喫茶店に行く。
行くのだ!
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