第53話 抜けない

 いつもの駅舎の上ではなく、カラスはとある駐車場に来ていた。この駐車場はそれなりに規模の大きな公園に付属している駐車場で、周囲は木に囲まれている。

 とまあ、そんなわけでいろんな虫やら葉っぱやらが停車中の車に付着するのだが……。

 

「で、何してんだ……ハト」

「中にいもむしがいるんですよ!」


 ハトは車のバンパーの中へ潜りこみ、首を振ろうとして頭をぶつけたようだった。

 全く……いもむしならそこら辺にいっぱいいるじゃないか。わざわざそんなところにいるいもむしを獲らなくても……なんてカラスがはあとため息をつくが、ハトは止まらない。

 

「おおお、数匹いますよ。先輩!」

「そ、そうか……」


 カラスは向いにある車のボンネットの上に乗っかり、くあくあとハトの様子を眺めていた。

 しばらく、必死にいもむしを捕食していただろうハトの動きが急に止まり、ジタバタとバンパーからはみ出たお尻を振っているではないか。


「どうした? ハト?」

「ぬ、抜けなくなってしまいました。先輩!」

「……」


 俺にどうしろって言うんだよ! と思ったカラスであったが、ハトだから仕方ないと思いなおす。

 仕方ねえなあと呟きつつも、何のかんのでカラスはハトのお尻の羽を咥えて引っ張る。

 

「んんんんー」

「あ……」


 引っ張ったはいいが、すぐに羽が抜けてしまった。

 どうしたもんかな、これ……。カラスは少し悩み、もう一度やってみるかあと思った時、見知った奴らが姿を現す。

 

「どうした? カラス?」


 いつもながら尊大な態度で胸をそらした三連星がカラスの隣に着地した。


「おお、緑か。ハトの奴がここにハマってしまったんだよ」

「よっし、俺たちが何とかしてやるぜ。いくぞ、野郎ども」

「へーい」


 緑の号令に取り巻きの二羽が続き、彼らはバンパーの中へと消えていく。

 彼らの体躯であれば、中に入りハトを内側から押すことができるというわけだ。

 

――五分経過

 ハトはピクリとも動かない。どうやら三連星にとってはハトが重た過ぎたのかもしれない。

 

「よっし、俺も引っ張るぞ」

「合わせろよ、カラス」


 中から緑の声が聞こえ、カラスは「せーの」と掛け声を出す。

 

 しかし、ハトのお尻の羽が抜けただけで状況は変わらなかった。

 んー、ここは……青木を呼ぶしかないか。なんてカラスが考えていると、後ろから声がする。

 

「……どうしたの? カラスさん?」

「お、おお。ユミじゃねえか、久しぶりだな」

「……うん、久しぶりだね。ハトさんが抜けないのかな?」


 ユミは車のバンパーに手を入れると、ハトを傷つけないようゆっくりと彼を引き抜く。

 ここまで苦労したのが嘘のようにハトはあっさりと脱出することができたのだった。

 

「……ハトさん、気を付けてね」

「ありがとうございまっす!」


 ユミはにこにことしたまま、ハトを手のひらに乗せてカラスの隣で彼を降ろす。


「ユミ、ありがとうな!」


 カラスもユミに礼を述べた。

 久しぶりに会ったユミと何して遊ぼうかとカラスは思案し始める。

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