第55話 せんせー

――雨、今日もまた雨。

 今朝はなんだか急に冷えるなあとカラスがくあくあしながら、駅舎の人間たちを見下ろしていると……ヨチヨチくるっぽーとハトがやってきた。


「先輩ー! ちぃぃぃっす!」

「おう、ハト。冷えるなあ」

「そうっすね! ぷるぷるしてもすぐ濡れますし」

「体を洗うにはいいんだけどな」

「そうっね! くああ!」

「くええ!」


 二羽はくあくあとひとしきり鳴くと、再び人間たちの観察をはじめる。


「こんな日には先生のところ、行ってみます?」

「あー、あいつかあ。ハトは好きだよな」

「そうっすね!先生さんは先輩ほどじゃあないすけど、パネエッスからね」

「褒めんなよ」

「褒めてません!」

「くええ!」

「くああ!」


◆◆◆


「そんなわけでやってまいりました。小学校です」

「ここの飼育小屋は空から侵入可能だ。って俺は誰に言ってんだよ」


 カラスとハトはとある小学校の飼育小屋に侵入する。

 そこには、にわとりが一羽こけこけとトサカを揺らしていた。


「先生ー! ちぃぃぃっす!」

「おや、ハトくんか。それにカラスくんも。さ、冷えるだろう。こちらへ来たまえ」


 にわとりの誘いにハトだけが乗っかり、彼はにわとりの翼の布団で暖まる。


「なんか面白い話してくれよ」


 カラスがぶしつけに頼むと、にわとりは嫌な顔一つせず、「そうだなあ」とのんびりと呟いた。


「先生ー! 食べ物の話がいいっす!いもむしとか」

「いもむしかね。いもむしは成長すると何になるか知っているかい?」

「チョウチョっす!」

「毛のあるものをケムシ。毛のないものをいもむしと呼んでいるよね?」

「そうっすね!」

「ハトくんが言うようにいもむしにはチョウチョになるものもいる」


 ん、カラスは先生の言葉が引っかかる。その言い方だと……。


「先生、じゃあ、蝶にならない奴もいるってことか?」

「おお、さすがカラスくんだ」

「先輩! 洞察力がパネエッス!」

「そうなんだ。いもむしには蝶になるものも、蛾になるものもいる。ケムシもそうだよ」

「ふーん。面白いな」


 カラスは面白い話が聞けたことでくええと上機嫌にさえずった。

 しかし、ハトは知性をまるで感じさせない顔を傾け、くるっぽーと一声。


「チョウチョも蛾も食べないから興味ないっす!」


 ちょ、おま……それはねえだろとカラスは思うが、ハトだから仕方ないと考え直す。


「なるほど。こりゃ一本取られたね」


 にわとりは怒ることもなく、こけこけっと穏やかに笑う。


「お、雨もあがったようだね」

「そうだな。先生、また話を聞かせてくれよ」

「もちろんだとも」


 三羽はぐあぐあくええと言葉を交わすと、お開きとなったのだった。

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