第54話 ベンチ
ユミが公園のベンチに腰掛けると、カラスもヨチヨチと歩いてベンチに登る。
無事に脱出できたハトは三連星たちと一緒に土をほじくり返しに行ったようだ。
「ユミ、そっちに行こうと思ったんだけど、場所が分からなくてな」
カラスは青木から聞いた地名だけユミに伝えるとくああと翼を揺する。
「……ありがとう。来ようとしてくれたんだね」
ユミははにかみ、カラスの頭を撫でた。
次に彼女は背負っていたリュックを開いて、中から紙を一枚取り出す。
「ん?」
「……ボクが働いているところの宣伝広告なの。これに場所が書いてるから……」
「お、おう」
そう言われてもカラスに人間の文字は読めない。それに、雨に濡れたら紙はグシャグシャになってしまい、最悪文字が読めなくなってしまうだろう。
あ、そうだ。青木の家に置いときゃいいか。
カラスは邪悪な笑みを浮かべ、くええと一声鳴く。
「……人間のお友達がいるの?」
「うーん、友達というよりは舎弟だな。くええ!」
「……そう。ボクも?」
「何言ってんだよ。ユミは友達だろ?」
「……うん」
ユミは満面の笑みを浮かべ、カラスへ魚肉ソーセージを少しだけ千切って渡す。
カラスは喜色をあげ、すぐにそれを突きはじめた。
のんびりとした時間が流れ、ユミとカラスは風で揺れる木々を眺める。
その時、彼らに文字通り水を差す雨がポツポツと降りはじめた。
「……カラスさん、濡れちゃうよ?」
「俺は平気だが、人間は濡れるのを嫌がるよな」
「……そうなんだ。ボクも平気だけど、ユウに買ってもらった服が汚れちゃうのは嫌かな」
「雨宿りするか」
カラスはジャンプして一息にベンチからおりると、ヨチヨチ歩き始める。
「……飛ばないの?」
「飛ぶと疲れるんだよ。特に雨だとなあ。人間には分からないかもなー。あの舎弟もわかってなかったし」
「……そうだね。あのバカ娘は疲れた様子がなかったけど……」
「ん?」
「……ううん、ごめんね。こっちの話だよ」
「……そうか」
「……うん」
ユミとカラスは近くのコンビニに行って飲み物を買い、買い物袋にユミが先ほどカラスに渡した広告を入れる。
「これで濡れないよ」とひまわりのような笑顔でユミはカラスに言った。
「おう、頭いいな!ユミ」と応じるカラス。
そこへ、雨に濡れたハトが飛んできた。
「先輩ー! ちぃぃぃっす!」
「おう、ハト」
「……お、おお! ユミさん、ちぃぃっす! お久しぶりっす!」
「向こうから会いに来てくれたんだ。ハト」
「そうっすか! くああ!」
「くええ!」
カラスとハトの囀る様子を眺めるユミは口元に笑みを浮かべている。
「……仲がいいんだね。ボクはそろそろ行くね」
「おう! またな!」
カラスはユミの肩にとまると首をまわした。一方のユミは彼の頭をそっと撫でる。
また、会いに行こう。今度は場所が分かるからな!
カラスは後ろ姿が遠くなって行くユミを見つめながら、そんなことを考えていた。
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