第24話 帰宅

 アヒルボートで楽しんだカラスとハトは、アヒルたちがいなくなりくえええと勝ち誇っていたが、あることに気が付く。

 

「先輩、そろそろ帰りますか」

「そうだな……」

「電車乗ります?」

「んー、それはいいんだが……」


 適当に電車に乗ってきたから、カラスはどのルートを通れば戻ることができるのか分からなくなっていた。

 聞くまでもないが、三歩でくるっぽーするハトには期待するまでもない。

 とりあえず、駅に向かうかと飛ぶのではなく、よちよちと歩道を歩いて進むカラスとハト。飛ぶと疲れるからという本当にどうでもいい理由で二羽は歩いていたのだった。

 おお、あれは……カラスはきらりと光る一円玉を発見する。彼は光る物が大好きで、見つけては巣に持って帰っているのだ。

 うーん、持って帰りたいところだが、これをくわえたままたぶん遠距離である俺の巣までは厳しいなあ……なあんてカラスが考えていたら、彼の目にとんでもない光景が映る。

 

「ちょ! ハト、何してんだ!」

「……カラスさんも迷子……?」


 な、何だってえええー。カラスは驚きで口をパクパクさせる。

 頭にお団子を左右に二つ作った人間の少女の肩にハトがとまっていた。ここまではまだいい。人間をまるで恐れない狂気を持つハトならば、ありえない話ではない。

 し、しかしだな。この少女……おそらく小学校の高学年くらいの彼女、今、俺と会話してなかったか? これまで人間の言葉など理解できた試しがないカラスはいたく狼狽する。

 

「お、俺の言葉が分かるのか?」

「……カラスさんも話ができるんだね……」

「先輩! この子に帰り道を教えてもらいましょうよ!」


 呑気なハトは陽気なもんだ。


「分かるのか……俺たちの街はこれこれこんなぐああなんだが……」

「……たぶん、あの辺かなあ……ちょっと遠いから……電車に乗るといいよ……」

「うーん」

「……大丈夫、ボクが途中まで一緒に行ってあげるから……」

「い、いいのか」

「……うん……」


 少女は肩口で切りそろえた茶色い髪をなびかせながら屈託のないいい笑顔をカラスに向けた。

 し、信用していいものか……、このまま取って食われたりしねえだろうな。カラスの心配をよそにハトが勝手に少女に案内されることを決めていた。

 「お、おおい」とカラスはハトを注意しようと思ったが、「まあ、いいか」と彼も本来の適当さで気にしないことにする。

 

「……カラスさん、これ食べる……? ハトさんも……?」


 少女は肩からかけた小さなポーチから、せんべえを取り出し二羽に見せた。


「い、いいすね! 細かく砕いてもらえますか?」


 食いしん坊のハトはいの一番に飛びつく。

 少女はハトの申し出通り、せんべえを細かく砕いて地面に置く。

 二羽はくあくあと鳴きながら、せんべえをツンツンと突いたのだった。

 

 ◆◆◆

 

「……じゃあ、ここでね……」


 乗り換え駅で少女はカラスとハトに手を振り、踵を返す。

 その時、ふわりとした優しい風が吹き少女の短いスカートが半ばまで捲れてしまう。

 

「お、おい……あの人間……」

「どうしたんですか? 先輩?」

「あ、いや、気のせいだよな」


 カラスは少女のお尻から生える尻尾のようなものを見た気がしたが、このことは心の中にしまっておくことにしたのだった。

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