第14話 サーフィン

 都内某所の駅舎の屋根、いつもの二羽がグダグダしていた。特にカラスはいつも以上にダレており、頭を床につけ首を伸ばしているほどぐでーんとしている。


「先輩、どうしたんですか?」

「暑い……」

「ここは直射日光がモロに当たりますからね」

「暑い……」

「先輩、真っ黒だから日光を吸収しますよね」

「暑い……」

「……暑い?」

「うん、暑い」

「暑い」

「……涼みに行くか、ハト」

「はい!」


 重たい頭を振り上げくあああ!と気合を入れたカラスは翼をはためかせた。

 ハトも彼の後ろに続く。

 移動中もカラスは何度も「暑い」と呟いていたことは本当にどうでもいい余談である。

 

 ◆◆◆

 

「そんなわけで、やってまいりました動物園。頻度高いですよね?」

「だから……誰に……ハト、そっちじゃない。そっちはバナナの方だ」

「え? あの建物ですか?」

「ああ、そうだ。あそこは壁に覆われているが、上は吹き抜けになってる」

「そうっすか!」


 カラスはハトを先導し、白い建物上空へと向かうのだった。

 白い建物はカラスの言う通り、上部が吹き抜けになっていて心なしか冷気が舞い上がっているように思える。

 カラスは迷うことなく、とある区画へ一直線に降りて行った。

 

 そこは、ペンギンたちが密集して暑さにグダグダしている飼育棟でカラスとハト以外の鳥たちも数羽涼みに来ているようだ。


「あれだあれ」

「氷っすか!」


 カラスは寝そべるペンギンの腹の下にある氷を嘴で指し示す。

 ハトは思う。ここはそもそもペンギンのために冷房が効いていて涼しいんだけど……と。でも、カラス先輩には先輩なりの考えがあるのだとハトはすぐにその考えを引っ込めた。

 

「でもどうするんですか? ペンギンが乗っかってますけど?」

「そろそろ……来るはずだ」


 カラスがくええと二回ほど鳴いた辺りで飼育員が巨大な板氷を飼育棟に置いていく。

 これに真っ先に駆けこんだのがカラスだ。彼は氷の上に飛び乗ると、そのまますすすーいと滑る。

 

「先輩、パねえっす! 僕もやりたいっす!」

「おう、一緒にやろうぜ!」

 

 ハトも仲間に加わり、すすすーいっと氷を滑る。

 しかし、そこへペンギンがやって来てすすすーいっと腹で滑り始めた。


「ぶつかったら飛ばされそうです。先輩」

「涼んだし、サーフィンでもするか」


 カラスはくああ!と自信満々に鳴くと、ペンギンの上に乗っかりくえくえと顔をあげカッコいいポーズをきめる。

 ペンギンはカラスに気にした様子もなく、すすすーいっと滑り続けるのだった。

 

「カッコいいっす! 先輩!」

「そうだろそうだろ!」


 くあくあと騒ぐ二羽は今日も平和そうだ。

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