第40話 雨

 いつもの駅舎の上でカラスが人間どもを見下ろしていると、そこへハトがやって来た。外が雨だったものだから、ハトは全身を濡らしている。一方カラスはちょうど窪みになった箇所へはまり込んでいるので、濡れてはいない。


「先輩ー! ちぃぃぃっす!」

「こら、体をブルブルさせるな! 濡れるだろ」

「雨が降ってますからねー。くああ!」

「くええ!」


 カラスはハトから微妙に距離を取り、ハトから飛ぶ水しぶきを巧みに回避する。


「そういや、先輩。川に変な生き物がいるんすよ。人間たちが集まってます」

「全く……人間たちはいちいち暇だよな」

「そうっすね!」

「見に行くか……」

「……」

「……」

「くああ!」

「くええ!」


 人間たち以上に暇を持て余しているカラスとハトは、川に向かうことにした。


◆◆◆


「そんなわけで、やってましりました。川です」

「なんかいるな。なんだあいつ?」


 ここは川の下流。流れが遅く川幅が広い。

 人間たちが釣りやらをやっている姿を普段見ることができるのだが、人間の姿をここで見る事は少ない。

 しかし、今は違う。

 変な生き物がいるというから、人だかりができているではないか。


 カラスとハトはそんな人間たちを他所に飛翔して変な生き物がよく見える位置まで動く。


「なあんか、ラッコに似ているな」

「動物園のあれですね」


 カラスは動物園と聞くとバナナを食べたくなって来る。久しぶりに動物園に行くか……あ、あの人間に持って来させてもいいな。


「先輩ー!」


 思考が変な方向へいってしまったカラスをハトの声が呼び戻す。


「あー、これ、たぶんアザラシじゃね?」

「アザラシっすかー。美味しいんですかね?」

「あまり食べたいとは思えないなあ」

「そうっすね! 奴さんに聞いてみます?」


 ハトは知性をまるで感じさせない目をカラスに向ける。しかし、カラスは体を震わせ水しぶきを飛ばすと、かぶりを振った。

 なんでわざわざ、あいつに会いに行くんだよ! とカラスは心の中で突っ込むが口に出す事はしない。

 だって、ハトに説明するとなると長くなるから。


「ハト、見るだけならこんなところに来なくたって動物園にいた気がする」

「そうっすね! 探してみますかー?」

「見に行ってみるか」

「はい!」


 二羽はアザラシらしき生き物への興味を無くし、今度は動物園に向かうことにしたのだった。

 余談であるが、人間たちの観衆に混じって鋭い目をした猫の姿があったということを二羽は知らない。

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