第38話 変わったこと
都内某所のいつもの駅舎でカラスとハトはいつものようにくああとあくびをして人間どもを眺めていた。
「先輩ー」
「ん?」
「たまには変わったことしたいですねー。この前の旅行みたいに」
「そうだなあ。たまにはそういうのも刺激になってよいよな」
「ですよね! くああ!」
「くええ!」
そういえば、あの人間の少女はどこに住んでいるって言ってたっけか。カラスは件の少女との邂逅を思い出そうと頭を捻る。
ハトにあの時のことを語ったんだけど……カラスはハトの顔へ目を向け……あ、ダメだこらとすぐにハトへ聞くことをやめた。
彼は頭を前後に揺すりくるっぽくるっぽしていたからだ。その顔からは一切の知性を感じさせない。ここまで無になれるのも才能だよなとカラスは思う。
「ハト、ちょっと出かけて来るわ」
「はいっす! ボクはハトの集会に出てきますね」
「ボク」か……確かあの少女も「ボク」って言っていたよなと、カラスは益体もないことを考えながらとある場所に向かう。
◆◆◆
カラスが向かった先はコンビニだった。ここはあの人間が働いているのだ。そう、カラスが頼めば食料を持ってきてくれるあいつがいるコンビニである。
カラスは颯爽とコンビニのレジ裏にある窓の前に降り立つと、くええと中を見渡した。
お、いるいる。あの人間。
カラスはあの人間と少女の顔は分かるようになっていた。カラスの知性とはなかなか侮れないのである。
「ぐあああ! ぐあああ!」
カラスは力いっぱいの声で鳴くと、すぐにあの人間がコンビニから出て来た。
「おおおい、カラス! 叫ぶなって言ってるだろ!」
「青木、遅いぞ」
「って俺の名前をいつ覚えたんだよ……。それはいいとして、いつも残飯をあげてるだろ」
「今はそのことじゃあない。青木、ええと、西の山は知っているか?」
「……それじゃあわからんって! 地名とか分からないの?」
バカ面をした人間……青木というそうだ……が、思いもよらぬ言葉を返してきた。
そうか、名前か! カラスの頭に電球が浮かぶ。
「確か、ユミだったか……」
「それ、人の名前じゃねえかよ! い、いや、ユミって名前の山があるかもしれないな……」
考え込む青木をよそに、カラスは名前だと思う言葉を呟いていく。
「ユウ……後は……何もなかったな。もう少し聞いておけばよかったなあ……」
「西の山だけじゃあ、さすがに分からないぞ。他に何か言ってなかった?」
「また近いうちに会いに来るって言ってたな」
「じゃあ、待っておけばいいんじゃないのか……」
「いや、ユミは俺がここにいるって知ってんのかな……会ったのは湖だし」
「うーん……」
考え込む青木をよそに、カラスはくあっと一声鳴いて飛び立つ。
考え込む青木は考え込んでいたため、そのことに気が付かず、カラスがいなくなったというのに一人でうんうんと悩んでいたという。
うーん、会いに行くのは面白いと思ったけど、無理そうだな。
カラスはあっさりと「いつもと違うこと」を実行することを諦めたのだった。
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