第42話 特別編4 板

 俺はいま川沿いの土手にいる。土手は草むらになっていて、少数ではあるが子供達が段ボールを敷いて土手を滑って遊んでいた。


 平日とはいえ、休みの日に何でこんなことをせなあかんねん!

 いや、天気は快晴。うららかな陽気で寝転べば快適に眠れそうな絶好の行楽日和なのだ。

 し、しかし、俺の頭の上にはカラスがいて、向かい合うようにしてお座りする姿は可愛らしい猫が。いや、猫が可愛らしいは訂正する。眼光がやべえ、何だよこの数人ヤッテマスみたいな目は!


 それはいい、別にカラスや猫がいようが構わない。勝手にぐあぐあやにゃーんと鳴いて遊んでおいてくれれば。


 問題は、俺が長い板を三枚。楔用の短い板を数枚持っているということだ。


「早くしろ、青木」

「モタモタするな、青木」


 いつのまにか「人間」と呼ばなくなった二匹は、ケダモノのくせに俺の顔を認識できているらしい。


「わ、分かったから突くな!」

「口はいいから手を動かせ。そうだ、そこに運べ」

「あ」

「先に楔打たないと傾斜を下っていくに決まってるたろ!」

「そ、そうだな」


 そうなんだ。何故か俺がこいつらが遊ぶ為の滑り台を作らされている。作るといっても板を置いて板が滑り落ちて行かないように支えを地面に打ち付けるだけなんだが……。


 こいつら、いつの間に知ったのか知らんが俺の部屋の窓まで来て朝からぐあぐあと煩かったのだ。お隣さんに壁ドンされる前に外に出たら、なし崩し的にこうなった。


「考え事をしている場合じゃねえ。早くやれ!」


 このクソカラスめえ。うるせえ!

 とっととやって帰ろうっと。


――十分経過。


「できたぞ。これでいいか?」

「よくやった青木。お礼だ。持っていけ」


 猫が何処からかネズミを加えてきて地面に置く。

 要らねえ、要らねえから!


「先輩ー!出来たんすか!さすがっす!」


 知性を感じさせないハトが舞い降りて来て、カラスを褒めたたえている。

 もはや、ハトが喋ろうが驚く俺ではない。が、がが、やったのは俺ね、俺。


「じゃあ、帰るわ。カラス」

「おう」


 奴らは何やら盛り上がって「グランプリだ」とか言ってるようだ。子供のような遊びで盛り上がる彼らに俺はほんの僅かだけ微笑ましい気持ちになり口元を綻ばせた。


 しかし、夕方が過ぎる頃、そんな気持ちは吹き飛んだ。


 「青木さん、粗大ゴミのポイ捨ては困ります」と指導が入ってしまった!

 まあ、言われてみれば当たり前なんだけど、カラスたちに文句を言っても仕方ない。だって、彼らは人間じゃないから人間のルールなんて知らなくて当然だもの。


 そんなわけで、長くて運ぶのが大変な板を家まで持って帰った俺なのであった。

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