第48話 特別編9 どさくさ

 前方にはこわーいお兄様方、背中には棒読みで表情さえ変えていないが、怖がっていることにしたいミオ。


 よおし、ここは。


「ミオ、俺がキミを守る」


 カッコいいセリフを言って、どさくさに紛れてミオを守るように覆いかぶさった。

 ええい、こうなったらもう役得を楽しむ以外ねえだろおお。

 あー、ミオの背中柔らけえーなんだかいい匂いもするー。


「良一さま、また不穏な事を考えてらっしゃいますよね?」

「あ、いや、俺はほら『か弱い』ミオを守ろうとだな……」

「そ、そうですか……もっと守ってくれても良いんですよ?」


 ちょろいんキター。

 俺は調子に乗ってミオを強く抱きしめる。もちろん、お兄さん達に背を向けて。


「おい、お前ら聞いてるのか?」


 お兄さんが何か吠えてるけど、もういいや、ここで今回の異世界逝きが終わっても。そうなのだ。異世界逝きは俺が倒れると元の場所に戻る。

 そんなことより、いい香りだあ。あははー。


 そんな俺の気持ちをぶち壊すようにドスのきいた声が何処からか響く。


「おい、青木。あの馬鹿どもは俺の獲物だ……」


 い、いつのまにそこへ!

 驚く俺の頭の上に猫が乗っていたのだ。


「青木、交尾するのか?」


 カラスが飛んできて俺の周囲をぐるぐると回り囃し立ててくる。


「いもむしうめえっす!」


 ハトはピンク色の気持ち悪いいもむしを捕食していた。


 俺が言うのも何だけど、カオス過ぎる。

 たがしかし、そんなもん構わん。気にしないとも。


「ミオー!」


 がばーっとミオにアタックしようとしたら、冷たい目で睨まれた。

 その絶対零度の空気に俺は万歳のポーズのまま固まる。


「良一さま、調子に乗りすぎです。あまりおいたが過ぎますと?」

「は、はい。すんませんでしたー!」


 スライディング土下座をする俺。もちろん、お兄さん達から背を向けて。


「お前ら、俺たちを馬鹿にしてやがるのか!」


 そら怒るよね。お兄さんたち……。


「おい、人間。とっととソーセージを置いて立ち去れ。臭いで分かる。お前たちがソーセージを持っていることは」


 猫がなんだかカッコいいこと言った!


「何故それを……。お前らなんぞに渡すわけねえだろうが!」

「ならば、押し通るのみ……」


 あれ、なんか俺たち無視されてない?

 なんとか言ってやれ、カラス。


「ぱーどぅん?」

「カラス、それはもういいって!」


 くあくあと俺のツッコミを馬鹿にするように、カラスは俺の頭を突く。


「こら、痛い。痛いって!」

「くええ!」


 その時、ギャーと男たちの悲鳴が聞こえた。

 見ると、お兄さんたちが地に倒れ伏しているではないか。

 猫はフンと首をニヒルに振り、馬車の中からソーセージを一本くわえて戻ってきた。


「な、なんだか、体がムズムズするっすー!」

「ちょ、ハト。体がでかくなってるぞおお!」


 ハトの体がみるみる巨大化し、馬車ほどの大きさになってしまう。


 もう意味不明だよおお。

 何とかしてくれえ。


 俺の叫びは虚しくこだました。

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