第25話 スナック菓子

 いつもの駅舎ではなく、公園にある木の枝にとまったカラスとハトは楽し気に遊ぶ人間の子供たちを見下ろしていた。

 ベンチに座っていた子供がスナック菓子を置いたまま、滑り台に向かう。それを見逃す二羽ではない。

 くあああと気合を入れたカラスがスナック菓子の袋を掴み、その場に中身をばらまく。これで人間たちはスナック菓子に興味が無くなる。何故人間たちがこれで興味を無くすのかカラスには理解できていないが、人間にはそういう習性があるのだと彼は考えている。

 理由は何だっていい。彼らにとって必要なのは、スナック菓子を食べることなのだから。

 

 ハトは袋から落ちたスナック菓子を一心不乱に突き、一方のカラスは袋に残っているスナック菓子があるかもしれないから、念入りに袋を立ててひっくり返しぶんぶん振り回した。


「先輩、おいしいっす」

「俺も食べる」

「くああ」

「くええ」


 うめえ、うめえ、くえええとスナック菓子を彼らが楽しんでいると、いやーな声が耳に入る。

 

――にゃーん。

 奴か、カラスのみ食べる手を休め首を回すと、予想通り奴がいた。

 奴の声によって、子供たちも興味を引かれたらしくベンチに戻ってきてしまう。

 子供たちは何を言っているのかカラスには分からないが、大きな声で叫んで悔しそうにしていた。すぐに彼らは興味を無くしたようで、今度は滑り台へと向かって行く。

 駆けていく子供たちの背に向かいカラスはにくああと話しかけてみるが、やはり子供たちは彼の言葉を理解していないようだった。

 

 んー、この前会ったあの人間は何だったんだろう……カラスは不思議に思うが、目の前のスナック菓子の誘惑には勝てずそれらを突き始めた。

 

「おい、カラス」

「ん?」


 あ、忘れてた。奴がいたんだった! カラスは目前にまで迫って来ていた奴の姿にビクリと体を震わせる。


「俺もいいか?」

「あ、ああ。いっぱいあるからな」


 奴の興味がスナック菓子にあることでほっと胸をなでおろすカラス。

 ちなみに、この間ずっとハトは脇目もふらずスナック菓子を食べている。

 

「そういや、俺たちの言葉を話すことができる人間って知ってるか?」

「ほう。お前たちの言葉を理解できる人間がいるのか。俺の言葉も理解できる人間に会ったことがあるぞ」

「それって……」

 

 カラスは先日会ったお団子頭の少女について奴に語り聞かせる。すると、奴は目線だけで生物の息の根を止められそうな眼光をカラスに向ける。

 「そ、その目、やめろ!」とカラスは内心思うが、それを言うと本当にくええされそうなため彼はぐっと言葉を飲み込んだ。

 

「カラス……逝くか……」

「え?」

「探しに逝くかと聞いている」

「あ、うん。でも湖のところだから、遠いんじゃ」

「何とかなるだろう」

「わ、分かった」


 奴の眼光に押され、カラスと奴(ついでにハトも)はあの少女を探しに旅に出ることになったのだった。

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