続けれるかは分かりませんが、崩壊後の世界。
本作続くようでしたらSUN値ましましな世界にしたい。
右から来たものをー左へ受け流す。
上半身と足元が見えるスイングドア。またの名をウェスタンドアをギギギと体で押して入ってくる客が一人。
「いらっしゃい」
「おう。邪魔するぜ」
客はウェスタンハットに無精ひげを蓄えたガタイの良い男で、気さくに右手をあげ、カウンタ―に座る。
彼に続き、彼と同じようなウェスタン風衣装をまとった肉感的な若い女の子が入店してきた。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
男の隣に女の子が座ると彼女を一瞥した彼が注文をする。
「カズマ。俺はバーボンをロックで。お嬢さんにはミルクで」
「りょーかい」
申し遅れたが、俺は黒田和馬(くろだ かずま)。へき地もへき地でウェスタン風バーを経営している。
経営者、すごいじゃないか? って思うかもしれない。
そんなことは全くなくてだな……。
周囲に民家はなく、荒野の中にぽつんと建つボロボロのバーってわけなのさ。まさに気分はウェスタン・サルーンの中だ。
「ちょっと! ミルク!?」
「アルコールな気分じゃねえと思ったんだが」
「そうじゃなくって。え、えっと、カズマだっけ? ミルクなんてあるわけ」
「あるぞ。もちろん、ロックにする氷もあるぞ」
驚く女の子に、ふふふと内心得意顔になる。
酒だけじゃなく、ノンアルコールだって一通り揃えてあるんだぜ。
彼女が驚くのも無理はない。20年前の崩壊前世界ならともかく、長期保存が難しい牛乳を取り揃えているのはなかなかに困難な作業だ。
20年前? 崩壊世界? その辺りはおいおい語って行くよ。今はいただいた注文を出さなきゃな。
頑丈さがとりえのゴツイ冷凍庫を開け、氷を取り出す。
アイスピックで氷をガリガリと削り、グラスに入れ、とっておきのバーボンウイスキーを注ぐ。
同時に牛乳も準備し、カウンターへトントンと置く。
「ほ、本当に牛乳じゃない」
「見せかけだけの合成品じゃないぞ。ちゃんとシティに行って仕入れてきている」
「シティって、ここからどれだけ距離が」
「はは。その辺は企業秘密ってやつさ」
鮮やかな赤髪をすくいあげ、グラスを動かしコロンと氷の動く様を眺めた女の子がそれを口につける。
「おいしい。本当に本物の牛乳なのね!」
「だから、そう言ってんじゃねえか。カズマの店は本物しか出さねえぜ」
な、とバーボンを片手に笑う中年の男。
「カズマは見た感じ、ミュータントでもアウトサイダーでもないし」
「もちろん、アンティークでもガンスミスでもない、ただの人間だよ」
似合わないウインクを女の子に飛ばしてみた。
これに対して中年の男がおいおいと彼女を注意する。
「詮索は無用だぜ。お互い触れられたくないものもあるだろう」
「まあ……」
ドオオオオオン。
その時、外で物凄い爆音がして、俺の声がかき消された。
中年の男はもちろん、女の子も悲鳴をあげるでもなく、すっと顔が引き締まる。
さすが、荒野の超危険地帯のバーへ来た客だけはあるぜ。
得物を手に外へ向かおうと腰をあげた彼らを手で制す。
「俺のウェスタン・サルーンを襲おうなんて輩には手出し無用だ。俺がやる」
そのまま、飲んでいてくれ、と言い残し、やれやれと首を回しながら外へ出る。
「ほんと、何でもありな世界になってしまったよな……」
目に映るは荒野を泳ぐ巨大なサメのような怪物だった。
あの凄まじい音は大岩を破壊した音だったようだな。砂色をしたサメは全長10メートルを超える。
その推進力で行く先にあるものを粉々にして進んできたようだ。
巨大な口には牙が並び、青い宝石のような目が口の上部にいくつも備えている。
直線的に進むようで、行先は大事な大事な俺のウェスタン・サルーンじゃないか!
「火でも吹くのか? それともバルカン連射でもするか?」
突拍子もないことを言っていると思うかもしれない。しかし、考えてみてくれ。
そもそも、サメが荒野を直進するなんておかしいだろって。
この異常な光景が日常なのが崩壊後の世界なのだ。あらゆる物理法則がおかしくなり、ミュータントだのなんだの、と意味不明な由来の生物が出現した。知的生命体にしても人間だけじゃなくなっているんだぜ。
俺は常識なんてものはとっくに捨てている。俺もその中の一人なのだから。
件のサメは砂嵐をまき散らしながら、一直線に迫ってきた。火を噴いたりがないのは幸いだ。
サメに対し、真横に構え左手を突き出し、右手を横に向ける。
奴が俺の左手に触れるか触れないかのところで、急に直角に方向転換し、そのまま直進して行った。
「って、おい。方向転換できるのかよ!」
200メートルほど進んだところでぐるりと方向転換したサメは、再びこちらに向かってくるではないか。
「そのまま平和的にやり過ごそうと思ったんだが、仕方ねえ。これも弱肉強食だ」
同じように左手をサメの方に向け、今度は右手を斜め上に向ける。
迫るサメが左手に触れようとしたところで、俺の右手を向けた方向へ空を飛ぶ。
ドシイイイイン。
とんでもない推進力だったのだろうな。サメが30メートル以上、天高く飛び、背中から地面に叩きつけられる。
その衝撃はいかほどのものか分からんが、叩きつけられたダメージでサメが息絶えたようだった。
パンパンと手を払い、客を待たせていることから、サメを放置して店に戻る。
「お待たせ。お代わりはいるか?」
「テラスから見ていたが、凄まじいな……」
男が脱帽したよ、とグラスを掲げるが、やれやれと肩をすくめてぼやく。
「なるべく面倒ごとは避けたいんだが、好戦的過ぎるんだよな」
「あれだけ強いなら、カズマもハンターになったらいいのに」
「ハンターには興味はないんだ。俺は世界でも指折りの危険地帯と噂のこの場所で、いや、こんな場所だからこそ、癒しを提供したいと思っている」
「よ、よくわからないけど、ミルクは美味しかったわ」
シティでウェスタン・サルーンを経営した方が、客も来るし、今より楽に運営できるかもしれない。
だけど、それじゃあダメなんだ。崩壊した世界だからこそ、その象徴たる場所で警戒心もなくゆっくり酒が飲める場所を提供する。
これぞ、最高にロックだろ。