どちらも三話まで書きました。
どっちにするかなあ。
以前出したカイワレと幼女主人公もので迷い中。
幼女の方はこちら。カイワレも連載版を三話まで進めましたぞ。
1.
森の中にある小さな小さな小屋に小さな少女がカラスと猫と共に住んでいる。
彼女に合わせたテーブルもこれまた小さなものだった。
テーブルにはたっぷりのジャムが塗られたパンにハーブティー。
縞々の猫を膝の上に乗せた少女が両手を合わせ、すんすんと湯気のあがるハーブティへ鼻をやる。
続いて、満面の笑みを浮かべた彼女がパンを手に取ったその時、窓枠に留まっていたカラスの翼がピクリと動き、声をかけてきた。
「リリー」
「んー。おいしいー」
呼ばれたところで、少女――リリーの手は止まらず、精一杯口を開けてハムハムとパンをかじる。
「リリアーナ」
彼女の愛称ではない名前で呼び直したカラスに対し、パンが詰まっていて声を出せない彼女はハーブティーをぐいっと飲む。
「あつっ!」
「急いで飲むからだ」
呆れたようにカラスがくああとクチバシを開く。
「どうしたの? ギル」
「唸り声が聞こえる。危ないかもしれねえぞ」
「どんな声なの?」
「獣だ。犬かそういうやつ」
犬? どんなこなのかな?
リリーの頭に浮かんだのは獣に対する恐怖ではなく、興味だった。
でも、先に食べちゃいたいな。
もぐもぐ。
無言で残りのパンを食べるリリーの元へカラスのギルがやってきて、羽繕いを始める。
一方で彼女の膝の上に乗っていた縞々の猫はすとんと降り、ぺろぺろと皿に満たされた水を舐め始めた。
獣と聞いてものんびりした空気がひとしきりながれ、ようやく食べ終わったリリーがうんしょと立ち上がる。
「行ってみよう!」
とてとてと扉口に向かうリリーが立ち止まり、振り返った。
ちょうど机の下に来ていた縞々猫の前でしゃがみこんだ彼女が彼を撫でる。
「にゃーん」
「すぐ帰るから、待っててね」
今度こそ外へ出て行こうとした彼女をカラスのギルが呼び止めた。
手提げカバンをクチバシで咥えた彼はリリーの胸元へそれを落とす。
「ありがとう! どんな子か見たくてカバンも忘れてたよ」
「場所も分からないだろ」
「あはは」
「案内する」
よちよちと先行して歩き始めるカラスのギルなのであった。
◇◇◇
森の中をカラスとリリーがよちよち、てくてくと歩く。
一羽と一人の歩みは遅く、目的地までたっぷりと時間がかかるが、双方特に疲れた様子はない。
木々の葉が擦れる音、時折届く鳥の囀り、虫の音……が、彼女らの穏やかな時間を祝福しているかのよう。
辿り着いたのは大きな大きな木だった。
太い幹に寄りそうようにして犬にそっくりな魔狼が横たわっている。魔狼の毛並みは目を見張るほどの美しい銀色であるが、矢が三本も突き刺さり痛々しい。
当然ながら魔狼はリリーたちに気が付いているが、吠える力も残っていないのか僅かに首をあげたものの、地面に顎をつけてしまう。
一歩前に進んだリリーに対し、動こうと体を起こす魔狼であったが、それは叶わず足を震わせ再び寝そべる。
「こいつは珍しい。シルバーウルフだな」
「そうなんだ。もっともっと森の奥に住んでいる子なのかな。綺麗な毛並みをしていて、とっても素敵だね」
せめてものとズラリと並んだ牙を見せる魔狼――シルバーウルフに対し、怯えた様子など一切ないリリー。
それどころか、彼の状態を案じ長いまつ毛を震わせる。
彼女は躊躇せず、自分の首など軽くへし折るほどの力を持ったシルバーウルフの前にしゃがみ込む。
対するシルバーウルフは傷つき、動くことはなかった。グルルと喉を鳴らすのが精一杯といった様子だ。
「痛かったね。ごめんね。少し触らせてね」
「お、おい、リリー!」
さすがに触れるまでいくとは思ってなかったのか、慌てたカラスが飛翔しリリーの肩にとまる。
足で彼女の服をひっぱるカラスに「大丈夫だよ」と右手を添えた後、リリーが再びシルバーウルフの背中に触れた。
続いて彼女は自らの中に語り掛ける。
(もう一人のわたし、お願い)
リリーの青い目が黄金に変わるとともに彼女の顔から表情が消える。
<診断を行います
矢傷:消毒、固定を推奨
状態:空腹>
(ありがとう)
すっと目の色が元に戻ったリリーは慈愛のこもった笑みを浮かべ、シルバーウルフを撫でた後、持ってきたカバンをごそごそ始めた。
「よかった。リア草とお水、それに清潔な布ならあるよ」
「カバンに入れていたのか」
「へへーん。怪我かもと思って持ってきたんだ」
「ちゃっかりしてるな」
矢を引き抜き、水で洗い流した後、リア草を貼り、布で巻く。
小さなリリーがシルバーウルフに布を巻くのは結構な時間を要したが、無事彼女の治療行為が終わる。
シルバーウルフは警戒こそ解かないものの、治療されている間、リリーに抵抗することはなかった。
「いい子、よく我慢できたね。ねえ、ギル」
「ん?」
「お水とお肉でいいかな?」
「果物も念のため持ってきた方がいいんじゃねえか」
さすが、ギルだね!
と彼を褒めたたえるリリーに対し、恥ずかしくなったのかカラスが彼女の肩から降り、背後に回る。
「ほら、とっとと取りに行こうぜ」
「うん! ちょっとだけここで待っててね」
◇◇◇
翌日になり、昨日と同じく水と肉を持ってシルバーウルフの元へとやって来るリリーとギル。
昨日と異なり、シルバーウルフが唸ることもなく、大人しくリリーの治療を受けていた。
「これで終わりだよ」
「ガウ」
立ち上がったシルバーウルフの頭を撫でたリリーが彼に釘を刺す。
「よかった。だけどまだ寝てなきゃだめだよ。わたしのお家まで運べたらいんだけど、わたしじゃきみを抱っこできないからごめんね」
「ガウ」
彼女の言葉に大人しく従いシルバーウルフが再び寝そべる。
「えらいえらい。シルバーウルフじゃ呼び辛いよね。うーん、そうだ。きみはガウ。ガウでいいかな?」
勝手にしろとばかりにそっぽを向くシルバーウルフ。
構わず、ガウ、ガウと何度も呼ぶリリーにカラスが呆れた顔だった。
更に翌日のこと。朝日が昇った後少ししてから、リリーが小さな小屋の外に出ると軒下に野兎が置かれていたではないか。
「ご馳走だよ。ギル!」
「変わった奴も……おい」
カラスの視線の先にシルバーウルフのガウが丸まっていた。
誰が野兎を獲ってここに置いたかはどれだけ鈍い者でも分かる。
そう、シルバーウルフのガウで間違いない。