第44話
いろいろなことを頭の中で巡らせているうちにとうとう店の前まで来たが、もう一歩のところで信号に引っかかった。つま先を地面につけて、前のめりで自転車をこいでいた姿勢を整える。
横断歩道の先を見てみると、そこには昼間には見ることのできないキラキラした街が広がっていた。きれい・・・、心の中で呟いてしまうくらい、よくある景色に感動してしまった。世間では毎日当たり前に見られる景色に感激するなんて、自分が浮世離れしているような感じがして猛烈に恥ずかしくなった。
手持無沙汰な時間を待つ間、少し顔を下げて深く呼吸をした。空気を吸って吐くという当たり前な行動を妙にぎこちなく繰り返して再び顔を上げると、店の前の道で、街灯がほぼ届いていない薄暗いエリアに人が二人立っていることに気付いた。
目を凝らして見つめる先にある二つのシルエットからわかることは、ロングヘアーでスカートを身に着けた女性がいるということと、もう一人は・・・。
気付かないわけがない。あれは彼だ。私がずっとずっと見つめ続けてきたあの彼だった。
私の愛しい男。あんなところでなにをしているの?
体調は?良くなったの?
彼を見つけた喜びと疑問が混ざりあって頭が混乱した。しかし目を逸らすことはできなかった。
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