第31話

 『今日、夕飯いらない』


 はぁ?


 短い文を見て、また誰に言うでもない言葉が口から飛び出した。いや、今度は姿が見えない夫に向けて無意識に口から出たのだ。


 今は夕方の六時。世の主婦たちは夕飯づくりに勤しみ、バタバタと動き回っている時間帯だ。そんな時間になって夕飯がいらないと知らせてくるはどういうことだ。今朝は何も聞いていない。


 急な仕事でも入ったのだろうか。苛立ってムカムカしながら夫に理由を聞くメールを送信したら返信はすぐに来た。



 『急に同僚からうまいもん食いに行こうって誘われた。すまん』


 

 急に?


 夕飯、ほぼ出来上がっているのに?


 普段食べている妻の料理は『うまいもん』ではないわけ?


 こちらの都合を考えないような同僚って何者?頭おかしいんじゃないの?


 断るとか別の日にするっていう選択肢はなかったの?即決?


 私の料理より同僚と食べる上手いもんの方が大事なの?


 瞬間的に不満が爆発し、私は心の中で何度も毒付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます