第40話

 自分勝手なものだと思う。


 俺は弱い人間だ。弱いがゆえに合コンの誘惑に勝つことができなかった上に、恋人の逆鱗に触れてしまうようなことをしでかした。愛華に未練たらたらな癖に、そこからさらに寂しさを紛らわすために他の女に手を出した。欲に勝つことのできない憐れな獣・・・それが俺だ。


 紗綾のことはほぼ成り行きだったとはいえ、俺はいつも本能という大きな波から逃れることができない。そして多くのものを奪い去る大波が去った後は理性の小舟に乗って、茫然としながらゆらりゆらりと救いのない孤独な時間を生きるのだ。


 隠し切れない自分の愚かさに打ちひしがれながらも、大波の余波に弄ばれていた俺は後日、本に自分の連絡先をメモに書き、最初のページに張り付けて紗綾に渡した。そこから先に進むことは容易かった。だが心は満たされなかった。紗綾と話していてもキスをしていても愛華といた時ほど夢中になる事はなかった。


 その時の俺の心は、今部屋の窓から見えている空のようにずっと薄暗い雲に覆われていて、いつになれば晴れる日が来るのか見当もつかなかった。

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