第43話

 彼を想い始めてから、今まで歩いてきた正しい道から外れていることには気付いていたが、それでもよかった。正解がわからない夫婦関係や結婚生活を維持することよりも、今は自分の幸せを優先したかった。長い人生、どこで誰といても先のことなどどうなるかはわからない。どうせわからないなら、本当に好きな人の側で何者かに自分の行動についての審判を下されたかった。


 進む先が険しい獣道であっても、その先に彼が待っているとわかっていればどこまでも進むことができるような気がした。たとえ苦労をしても、その苦労は彼との抱擁やキスですべて帳消しになってしまうだろう。そんな風に思える程、紗綾は後戻りできないところにまで踏み込んでしまっていた。



 マンションの駐輪場から自転車を引き出し、ライトを点けた。火照った頬や耳に風の冷たさをいつもより強く感じながら歩きなれた近所の道を走りだす。自転車のペダルを強く踏み込むほどに未だ見ぬ幸せに近付ける気がした。


 

 真っ黒い道に照らし出された細くまっすぐに伸びた白い光こそが彼へと続く希望の道なのだと紗綾は思った。

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