第25話

 「まぁ、女は稼ぎも体脂肪率も控えめがいいってことだよ」


 まるでこの世のすべての男性の意見を代表して言っているかのように話す。


「稼ぎ頭が家の中に二人もいたら、まとまりが無くなって家族らしくなれないような気がするんだよな」


「そうかなぁ・・・」


 今働いていない私は何も言えなかったし、これ以上会話を続けると喧嘩になりそうだったから会話を終わらせるために曖昧に呟いた。それからも夫は番組の中のタレントと同じように素人の男女の言動に上から目線の指摘を繰り返し、結婚できる人とできない人の違いを説いていた。それをちゃんと聞いていたのは最初だけで、その後は適当な相槌をうって、グラタンを食べることの方に集中した。


「あれ、機嫌悪い?」


「そんなことないよ」


「そうだよな。紗綾は結婚できた側の女なんだから問題ないよな」


「・・・」


私の反応に何か気付いたようだが、やっぱりだめだ。この人は良く言えば無邪気、悪く言えば無神経なのだ。


 もう何も話したくなかった。早く食事を終わらせて、あの本の続きを読みたいと思った。いや、もっと正直に言うなら、私と彼だけの霧のかかった薄暗い森のような落ち着く世界に逃げ込みたかった。


 別の世界に足を踏み入れた私は昨日までの私とは違う。それを表すように蛍光灯の光を弾いているような、夫のてかった頬を初めて目障りに思えた。それが私が変わったという何よりの証拠だった。


 

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