第26話
やたら明るく、一人の男性に群がる女性の集団を指して偉そうに笑っている夫はダラダラと夕飯を食べ、なかなか食事を終わらそうとしない。私は目をつぶっているわけにもいかず無表情で夫を見ていると、無性に彼に会いたくなった。
彼のことは何も知らないし、男女関係の在り方に対してどういう考えを持っているのかもわからないけれど、夫のように見下したり笑ったりはしないように思えた。所詮は私の妄想と希望でしかないが、今はどうしてもそう思いたかった。
私は変わった。一冊の本。一枚の付箋。一人の男の存在で昨日の夜までは気にならなかったことが気になるようになり、些細なことが気に障るようになっている。
毎日毎日死神に見放され、求める彼は遠く、私に与えられたものは日常と夫だけ。
こんな私からも婚活に勤しむ男女にアドバイスしたくなる。結婚はゴールではない。そして結婚したからと言って幸せになれる保証はなく、意外なところに落とし穴も待ち受けている。
結婚は結婚相手と闘う、長くて静かな戦争だと思っている。強いられる様々な難題をクリアできるように経済力をつけ、寛容さや忍耐などを装備しながら夫や妻と対峙する。さらに世間が求める理想の『妻像』『夫像』を手本として新たな自分を創造する。そして本来の自分を殺しながら慎ましく生活しなければならないのだ。つまり戦闘は自分の中でも外でも起こっているのである。
長期間戦争をして得られるものとはいったい何なのだろう。まだ結婚生活が長いとは言えない私にはわからないが、闘った結果、得られるものより失うものの方が断然多くなるような気がする。頭の中には身も心もすり減らして老いた未来の自分の姿が思い浮かぶ。そう、最後に残るものは干からびた自分の屍。得られるものは妻という役割を果たした達成感くらいのものだろう。男性側もそんな感じなのではないかと思う。
結婚生活の八割は苦行であることを彼らに伝えたい。結婚の先にあるものは幸せではなく退屈と閉塞感である。残念なことに、その事実に気付くのは結婚してからだ。そして気付く時にはもう何がしかの危機が夫婦の身に起こっている。
テレビに映っている結婚を巡って泣き笑いしている男女は楽しそうだ。今は結婚相手として選ばれない不安や不満があるかもしれないが、その不安を凌駕する大きな苦しみが結婚生活には待ち受けている。結婚などしないで済むならしない方がいいと思う。どうしても結婚したいと思うなら、結婚への憧れと己を捨てる覚悟を持てと言いたい。
ぐるぐる回る思考を止めて冷静になってみると、自分を棚に上げて、私は偉そうに何を考えているのだろう。そう思うと自虐的な笑みが浮かんで、一瞬で再び無表情に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます