第19話

 浮気や不倫という言葉は、私には無縁だと思っていた。しかし自分と関わりのない場所で知らない男女が行っている不毛な冒険だとイメージしていたものが、突然身近にやってきた。


 予想していなかった展開に、結婚してからずっと自分の上にあった濃い暗雲が急に薄くなった気さえしている。単純なものだと自分に幻滅した。私が今まで求めていたものは恋でも愛でもなかったはずだ。それなのにこの心の変わり様はどうだろう。浮かれているにもほどがある。


 そう自分を宥めて叱るように考え直してみると少し冷静になってきた。もしかしたらこのメールアドレスには本当に意味はなく、彼が営業のような感覚で私に伝えてきただけなのかもしれない。普通、立ち話程度の会話しかしない人間に特別な感情を抱くことなどないだろう。全ては私の妄想と期待と勘違いだったということだ。


 店にいた時からの感情と現実を比べて、今までの心の動きをを否定していくと、まるで数学の難しい問題が解けた時のような解放感が体の中を通り抜けていった。


 そうだ、これは壮大な己惚れだったのだ。自分で自分の過ちに気付けたとき、気分はすっきりしたはずなのに、今までよりも重たい色をした暗雲が再び私の心を覆い始めた。

 

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