第38話

 付き合って三年になる恋人の愛華と別れるかどうかの状況に発展するくらいの喧嘩をして、ひと月近く連絡を取らない生活をしていたのだ。原因は俺にあった。愛華に嘘をついて合コンに行き、他の女たちと遊んでいたのだ。それがばれた時には猛烈に反省して謝り倒したのだが、愛華は許してはくれなかった。連絡を取ってみても返事をしてもらえず、絶望していた。


 そんな最中、前から店に来ていた客の紗綾が接客をすることが多かった俺に頻繁に話しかけてくるようになったのだ。学生なのか、この店に来て長いのか、おすすめのドリンクは何か、などだったと思う。客に質問をされたら店員としては答えなければならないし、時として、こちらも興味があるふりをして軽く質問をし返さなければならない。


 不本意ではあったが、つまらない会話のやり取りから、普通の店員と客の関係以上の会話をするようになっていった。初めはただの客の一人として、営業も兼ねて会話をしていただけだったが、紗綾はそうではないようだった。店に来るたびに俺に対する好意を隠すことなく表すようになってきた。勘違いではない。店にすっぴんで来ることが多かった紗綾は会話をするようになってから化粧を欠かさなくなったし、夫と比べて俺をやたらと持ち上げるようにもなっていた。なんというか、俺に対してわかりやすく女を出してきたのだった。

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