第34話

 洗濯物を干そうとガラス戸を開けてベランダに出ると、きんと冷えた空気に一瞬身が縮んだ。


 部屋の中のテレビではクリスマス限定のカフェメニューを紹介している。凍えた指でハンガーにトレーナーをかけていると、彼の店で提供されるメニューがPRされている音声が聞こえてきた。モデルの女の子が違和感のあるハイテンションで伝える感想は笑ってしまうが、寒風で冷やされた体はテレビの中で湯気を上げているホットドリンクを欲しがっていた。さっさと干し終えて温かいカフェラテでも作ろうと思っていると部屋の奥でスマートフォンが鳴った。


 朝早くに誰だろうと、手に持っていたタオルを適当に物干し竿に掛けて部屋に戻った。緊急の用事だろうか。スマートフォンを手に取る前に、かじかんだ指を太ももに挟んで五秒ほど温めた。寒さと濡れた洗濯物の冷たさで赤くなった指はそのままだったが、これぐらいで温まるわけがないということはちゃんとわかっている。


 フローリングに胡坐をかいて、よし、と小さく気合を入れてからスマートフォンを操作してメールフォルダを見ると息が止まった。今来たメールは彼からのものだったのだ。


 胡坐から正座に座り方を変えた私は、彼からの短い文を凝視した。そんな私を諫めるように開けっ放しにしていた窓から冷たい風が部屋に吹き込んできた。顔を上げてその風を感じると、部屋の中に居ながら一陣の風を通じて、離れている彼と見えない糸で繋がっているような気分になれた。

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