第21話

 自惚れだと解ったが、付箋の存在自体は未だに意図がはっきりしない。意味を分かっているのは渡してきた彼だけだ。付箋(彼)にどういう意図があろうと、夫からすれば、この小さな紙切れは妻を挙動不審にさせる理由を持つ不審物なのだ。


 この付箋にどんな意味があろうと、二人を結ぶ小さな秘密の存在を気付かれたくないし、私以外誰にも見られたくないと思っていた。そして一人で秘密が放つ靄に心を任せて、霞んだ世界で付箋の意味を考え続けていたかった。


 しかし夫がいてはそうもいかない。少しでも一人になれるように、妻という立場を無理矢理利用して夫から離れようと、キッチンから声をかけた。


 「早くお風呂入って。今からグラタン焼くから」


 「はいはい、そうしまーす」

 

 関心のなさそうな間延びした声で夫が答える。

 

 「湯船でしっかり温まるんだよ」


 「はいはーい」


 不自然だっただろうか。いや、夫は気付かないだろう。自分が興味のある事以外は、どんなことにでも驚くほど鈍感で無頓着な男だ。昔はそんなところが少年のようで可愛いと思っていたが、今はイライラの種でしかない。今のような状況なら、こういう性格は少しだけ便利だと思えなくもないが・・・。


  

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