第47話

 私って何なのかしら。


 私ここで何してるのかしら。


 私はどうなりたかったのかしら。


 私って私って私って・・・。



 どこかで派手に鳴ったクラクションにハッとして現実に戻ると、目の前の道路を車がびゅんびゅん走っていた。前をずっと見ていたはずなのに信号が赤に変わったことにすら気付いていなかった。


 私はいったい今まで何を見ていたのか・・・。


 彼と出会ってから見てきたものが急に思い出せなくなった。さっきまでの冷静さはどこかに行ってしまったようだ。私は静かに錯乱している。時間も街も彼もこんな私を置き去りにしてどこかへ行ってしまう。残された私はどうなるの?


 これから私は一人で孤独に生きていくしかないのか。夫と住むあの部屋の中で、二人で生きていく長い人生の中で・・・。


 嫌だった。孤独も夫もあの部屋も。きっと影に包まれていたあの二人は付き合っているのだろう。これから笑いあって光に満ちたまっすぐな道を迷うことなく歩んで生きていくに違いない、私を捨てて。


 私一人が孤独になるなんて許せない。さっきまで心を占めていた悲しみや動揺はゆっくりと怒りに変わっていく。乱れがちになる呼吸を整えることもせず、湧き出す怒りに身を任せて見つめる信号機の赤は眩しく滲んでいた。

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