第23話

 食卓にはグラタン、サラダ、バゲット、スープ、カットしたオレンジを並べた。

部屋着に着替えた夫がいそいそとテーブルに着く。私もふうぅ、と聞き取られない程度の深い呼吸をしながら席に着いた。どちらからともなく、いただきますとそれぞれ呟き、彼はグラタンから私はサラダから手を付けた。


 夫はフォークですくったグラタンを目を細めてふーふー冷ましながら口に運んでいる。私は自分で作った感動もありがたみも感じられない料理をただ口に運んでいた。二人の間にある微妙な距離を埋めるために点けているテレビでは、婚活をテーマにしたバラエティが放送されている。普段よく見るタレントたちが婚活に励む素人の男女を観察しながら好き勝手話していた。


 「結婚を考えているなら、せめてダイエットしなきゃね」


 バゲットを千切りながら、テレビの中のふくよかな体形の素人女性を見て夫は言った。


 「ぽっちゃり好きの男性だっているでしょ?」


 「そんな男は稀だよ。ほとんどの男は普通体形がいいと思ってるもんだよ」


 「まず結婚は見た目よりは中身が大事だと思うけど?」


 グラタンをすくい上げながら、まるで自分が言われたかのように反論した。


 「まぁね。でも毎日好みじゃない相手を見続けるって苦痛だからさ」


 「女性だってそう思っていますよ」


 なぜ男というものは女にだけ容姿にハードルを与えるのだろう。


 男性の多くは、女も男にハードルを与えているという現実を異様なぐらい無視して気楽に、悪い意味で飾らず生きている。女性が与えるハードルは、女性が男性から与えられるものより遥かに高い。そのことに男性は一生気付かないまま生きていくことがほとんどだと思う。それが幸せなことなのか憐れなことなのかはわからないが、女性にはない鈍感さが何とも不思議で腹立たしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る