第9話

 かつてはすぐ傍にあったはずの夫への「愛」や「情」はどこへ行ってしまったのか。結婚してからずっとぼんやり過ごしていたから、結婚前には確かに存在していた大事な感情まで自分の中を通り過ぎてどこかへ行ってしまったのかもしれない。


 夫の心の中はどうだろう。まだ私に対する特別な感情は残っているのだろうか。こんなことを直接聞くことさえできないでいる私は夫から見て一体何者なのか。妻かただの同居人か家政婦か・・・。


 甘ったるい新婚夫婦でもあるまいし、考えることさえ野暮なことを考え始めた自分が馬鹿らしく思えて、再び煩わしさを含んだため息が体の中から出て行った。

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