プルメリア達とエルフィン、ヒゲ郎

20*フランケンシュタインのコスプレ



 森は思いの他深かった。森の遥か先には、稜線高く聳える山々が見える。見渡しても、文明の欠片すら見つけられない。プルメリア達が住んでいたエリア69は、相当な僻地に存在していたようだ。


「プル~疲れたぁ~」


 ダリアは、某汎用ヒト型決戦兵器のような猫背になって腕をぶらぶらさせている。


「しっかり歩く。置いてくよ」


「飛んじゃだめ?」


「ダメ。目立つでしょ」


「それにエーテルを使うと、エーテル測定装置に引っかかる可能性もありますし」


「えーん。ウメ、だっこちて」


 ダリアはウメの背中に飛び乗った。ダリアの豊満な胸が、ウメの小柄な背中の上でマシュマロのようにバウンドする。


「もう、重たいですよ」


「女性に向かって重いとは失礼だぞぉ~。う~ん、ウメの背中気持ちい~」


 ダリアは、ウメの背中で頬をすりすりした。ブレザーの生地の感触が心地よい。


「ウメ、そのままそいつをあの山の頂上まで投げちゃいな」


「え、いいんですか?」


「や~んそんなことちゃいや~」


「でも」ウメが言った。


「理想郷って、具体的にはどこにあるんですかね? 地図でもあれば分かりやすいのですが」


「理想郷っていうくらいだから地図なんかあらへんちゃうの」


「確か、サクラはイシガミ博士から聞いたって言ってた。イシガミ博士なら何か知ってるかもしれないけど……」


 イシガミ博士はエリア69の瓦礫の下か、ゴリアテの主砲で焼かれてしまった。もう、話を聞くことは出来ない。


「それなら、イッシーの部屋にあるんじゃないのぉ? むっつりスケベのサクラがエロ本を隠してたみたいにさ」


 死してなお、サクラは酷い言われようである。


「イシガミ博士の部屋ももれなく吹っ飛んだし」


「あ、そっかー」


「それなら、イシガミ博士のお家はどうですか」


「あ……」


 みんな、立ち止まった。


「イシガミ博士の家ってどこだっけ?」


「エリア69は研究施設だから、家ではないんですよね」


「ほぼ家になってたけどね! 研究室の床に布団敷いて寝てたしー汚い!」


「確か、どっかに実家があるって言ってたよね。うーん、ウメ、思い出して!」


「えー、わたしですか? うーんと……」


 ウメは自身の頭の部屋に入り、白いタンスの引き出しを開ける。そこには、イシガミ博士に関する様々な記憶が仕舞われている。


 イシガミ博士の、好きな食べ物はラーメン。趣味は研究。初恋の相手は幼稚園の時に出会った数式。血液型には興味がなく知らない。


「出身地は、ボンの村」


「おぉ、ウメナイス!」


「ぼんぼんぼんばー!」


「で、ボンってどこにあるんや」



 皆、沈黙。



「ウメ!」


 ウメは再び脳内の部屋に戻り、抽斗を開けた。イシガミ博士の好きな動物はトビウオ。あんなのでも実は結婚していて綺麗な奥さん(キョウコさん)がいる。奥さんとのファーストキスの場所は彼女の家のトイレ。夜の営みの最中、奥さんにフランケンシュタインのコスプレをさせようとして殴られた。


「ボンの位置は、エリア69から北東に1700キロ」


「さすがウメ!」


「よぉーし北東行くぞぉー!」


「ファーストキスの場所オカシイやろ!」


「ってか1700キロって遠くない?」


「もう歩きたくなぁ~い」


「ってか、ダリア未だにわたしの背中乗ってるじゃないですか」


「あはは、バレた?」


「ほらほら、ちゃんと歩く!」



 4人は、暗い森の中をひたすら歩いて行く。


 その先に、何が待ち構えているとも知らずに。










「もう歩けなぁ~い」


 山の麓まで来て、ダリアが地面に座り込んだ。


「ってか、歩いてボンまで行くの無理やろ。飛脚じゃあるまいし」


 ヒキャクというものが何なのかよく分からないが、皆思ったことは同じだった。


 歩くの、無理。


「公共交通機関使わない?」


「いいねー電車電車!」


「でも、一発でバレるんとちゃう?」


「その前に、わたし達お金持ってません」


「あー……」



 どうしようか? 


 途方に暮れてその場に立ち尽くしていると、突然、プルメリアの首に刃物が突き付けられた。


「ヘヘヘ、痛い目みたくなかったら大人しくしな」


 伸びっぱなしの髪と無精髭の不衛生な顔、薄汚れた布を身体に巻いた男が、プルメリアの背後に立ち、プルメリアの首筋にナイフを突きつけている。続いて、木々の影から同じ様に薄汚い男が刃物を持って姿を現した。


「ヘヘヘ、大人しくしな」


 盗賊だった。










「こいつらくさーい」


 ダリアは、自身の鼻をつまみながらしゃがみこんで、熟れた果実のように地面に落ちている盗賊の生首を眺めていた。


 プルメリアにナイフを突きつけた盗賊達は、ただの肉塊と化していた。


 プルメリアは、盗賊達が所持していた、血液のついた金品を手に取り、それを眺めながら言った。



「盗賊狩りしよか」

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