14*静かに終わりを待っていた
「ダメだ、囲まれてる」
やはり、相手も馬鹿ではなかった。後方には別の部隊が控えており、進路は完全に塞がれていた。木々に身を隠せる森ならまだしも、ここはなにもない荒野だ。谷から出れば、即狙い撃ちだ。僕達は、出口のない迷路に逃げ込んだ袋の鼠となった。
徐々に、爆撃の炎は迫っていた。ゴリアテの指揮官は恐らく、僕達が火に弱い事を知っている。時間をかけ、徐々に弱らせ、僕達をあぶり出す気だ。
ラオム・アルプトと闘ってから休みなしで動いていたので、流石に僕たちも体力を消耗していた。
「サクラ、もし生きたいと思ったら、もう殺るしかあらへん」
アザミが言った。
生きたい……僕は生きたいのか?
元々、僕は生きる事を諦めていた。あのエリア69の箱庭の中で、自らの運命を受け入れ、静かに終わりを待っていた。しかし、いざ終わりが迫ってくると、こうして足掻いてその運命から逃れようとしている。可笑しな話だ。僕は、人間を殺してまで生きたいとは思わない。でも、やっぱり、プルメリア達には生きて欲しい。
外の世界を見て、出来れば普通の女の子として――
「話してくる」
僕は言った。
「誰と?」
プルメリアが尋ねる。
「あのヒャッハー女と」
僕は上空に浮かぶゴリアテを指さした。
「はぁ? 話が通じるような相手じゃないって」
「話せば分かってくれるさ。僕達の無実を伝えてくる。みんなはここで待ってて」
「ちょっと!」
僕は一気に飛び上がった。しかし、すぐに腕を掴まれた。プルメリアだった。
「あいつらがあたし達を生かしておくわけないって」
「分からないさ。エリア69を破壊したのがラオム・アルプトだと分かれば、彼らの考えも変わるだろう。もしラオム・アルプトがまだ生きているとなれば、僕達を処分してしまうのは良策だとは言えない。ラオム・アルプトを倒せるのは、僕達コダマしかいないんだから」
「そんな話、奴らは信じないって」
僕は笑顔を作って、プルメリアの頭に優しく手を置いた。あぁ、初めて触れるプルメリアの身体。なんて柔らかい髪なんだ。もっと色々触りたい。
「僕を信じて」
「バカ! サクラのくせに生意気なんだよ!」
プルメリアは僕の手を払い、少し赤らめた頬で、そっぽを向いてしまった。
ふっ、生意気な小娘め。俺に惚れたな?
さて、とりあえずあのヒャッハーと話し合いだな。全開のオーラで身体を包めば、多少の銃撃や爆撃には耐えられる。あのラオム・アルプトの中に突っ込めたくらいだ、大丈夫だろう。
僕は勢いよく谷から飛び出し、荒野の中でひと際目立つ大岩山の上に降り立った。大岩山の上は、広い平場になっている。
僕は平場の中央に立ち、両手を上げた。降参、のポーズだ。すかさず、ゴリアテは機関砲で銃撃してきた。僕は横に飛んで避けた。どうやら、彼らの中に選択肢はないようだ。選択コマンドに表示されているのは、『殲滅』のみ。
次の瞬間、更にその殲滅するという意思が確定的になった。
ゴリアテの底にある搭乗口が開き、そこから、真っ黒な人型をしたミイラのような物体が8体、次々と投下された。その黒い人型は、空中に投げ出されると背中ついている不気味な黒い翼を広げて飛び、円を描くようにゴリアテの真下の空中で旋回を始めた。
ゴリアテはその8体を投下すると、その場所からゆっくりと移動した。僕は直感でそれが何であるか分かった。
僕たちコダマと対をなす存在。
魔獣から造られし人造人間、ゼーラフだ。
しかし、ゼーラフでのラオム・アルプト殲滅計画は白紙になったはず。まさか、秘密裏に開発されていたのか。
その異様な光景に、プルメリア達も大岩山の上に飛んできた。
「サクラ、あいつらは!?」
「恐らく、ゼーラフだ」
「ゼーラフ……。まさか、完成していたなんて」
「え、なに? 贅肉?」
「お前はどんな耳しとんねん」
普段クールなアザミがダリアに突っ込みを入れた。いや、今はそんな事に反応している場合ではない。奴らが本当にゼーラフなら、理論上は確実に僕たちよりもエーテル値は上だ。ある意味、ラオム・アルプトより本気を出さなければいけないんじゃないか?
そこまでして、人間は僕達を殺したいのか。いや、人間達は、エリア69を破壊したのが僕達だと思ってる。僕達が、人間に反旗を翻したと思っている。それならばまぁ、秘密裏に開発していたゼーラフを出してくるのも分かるか。僕達が本気を出せば、国を一つ滅ぼすのなんて簡単な事なのだから。
僕は上空を見上げる。
不気味な黒い翼を持ったゼーラフ達は、まだぐるぐると円を描きながら空中で旋回している。
ここは、逃げられないな。
戦うしかない。
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