13*荒野に迷い込んだ森の妖精




 谷には5機の戦闘機(僕が行動不能にした2機を含む)が僕たちを追い回し、更に上空にはまだ4機の戦闘機(プルメリアが相手にしているのとは別の機体だ)が控えていた。


 僕たちが谷から姿を現せば、上空で旋回している戦闘機がたちまち狙いにくるだろう。


 どこまでも追ってくる気だな。


 しかし、わざわざゴリアテを出してきたり、戦闘機でのこの戦い方、まるで事前に僕達を殲滅目標として想定していたかのようだ。あるいはエリア69陥落の一報を受けてすぐさまこの編成で出撃したとすれば、指揮官はかなりデキる奴だ。そんな人、今の軍備部に居たっけ。いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。




 谷の上には、相変わらず戦闘機が機関砲をぎらつかせて旋回している。やはり一機一機地道に行動不能にしていくかないか。


 しかし、ここは植物の少ない荒野だ。サボテンさんの力を借りるのも限度がある。明らかに僕たちにとって分が悪い……。



 その時、上空を旋回していた4機の戦闘機が相次いで墜落し、爆発した。地面に激突した機体は吹き飛び、火を上げた。



 まさか……



 プルメリア、やっちゃったのか……。







 プルメリアに、人間を殺させたくはなかった。




 僕の力不足だ……クソっ!







「ちょっと、何チンタラやってんの」



 プルメリアの声だ。


 上を見上げる。そこには、まるで買い物袋を両手にぶら下げるように、戦闘機のパイロットを4人、両手に抱えるプルメリアの姿があった。


「アンタが殺すなって言うから」


「プルメリア……」


 プルメリアは不服そうに頬を膨らませて、気絶しているパイロット達を無造作に地面に降ろした。


 よかった、心からほっとした。


 プルメリアを罪人にしたくなかったし、このパイロット達の命も奪いたくなかった。


 理由は分からないが、僕たちを狙ってくる軍人達も、喜んだり悲しんだりする普通の人間だし、大切な人もいるはずだ。このパイロットが死んだら、悲しむ人もいるだろう。僕は、そんな生命を奪いたくはない。


「ありがとうな」


「さ、行くわよ。みんなを助けに行かなくちゃ」


「あぁ」


 プルメリアは虹色の翅を羽ばたかせ、上空に舞い上がった。美しい黄金色の髪、虹色の翅、細く、守ってくれと言わんばかりの華奢な身体。その後ろ姿はまるで、荒野に迷い込んだ森の妖精のようだ。まったく、このツンデレ娘が。この件が落ち着いたら、たっぷり可愛がってやるからな。


「あ? 何言った?」


 キレ気味でプルメリアが振り返った。


「な、なんにも言ってないよ」


 しまった、心の声がついつい口から出ちゃったのだろうか。気をつけなければ。僕は虹色の翅を出現させ、プルメリアの後に続いて飛んだ。

 







 僕が心配性過ぎるのだろうか? 


 僕の心配をよそに、ウメ、ダリア、アザミも、パイロットを殺害することなく、器用に戦闘機を破壊していた。


「みんな、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。サクラくんも、怪我はない?」


 そう言ってくれたのはウメだ。ウメだけはいつも優しい。天使だ。エンジェルウメ。


「ありがとう、大丈夫だよ。みんなが無事でよかった」


「ねぇ、サクラ〜、もう鬼ごっこ疲れた〜」


 そう言ったダリアは地面に寝そべって片肘をつき、片脚を開いてエクササイズのような動きをしている。やめてくれ、ダリア。真っ赤なパンツが見えている。今はエッチな気分になっている時ではないんだ。それにアザミ、こんな時に寝るんじゃない。疲れてるのは分かるけど、緊張感が無さ過ぎだぞ。



「サクラ、上!」


 プルメリアに言われて上を見上げると、まるで厚い雲が覆いかぶさるように、飛行軍艦ゴリアテが僕達の真上に現れた。そして、心の準備をする暇もなく、無数の爆弾を投下してきた。


「逃げるぞ!」


 ゴリアテは、谷に沿ってゆっくりと移動しながら谷底に爆弾を投下し始めた。


 谷底が、爆炎に包まれる。



『ほらほらぁ、熱いでしょ? これで焼け死になさい。きゃははははは!』



 ゴリアテのスピーカーから、甲高い女性の笑い声が谷底に響く。まるで、這いつくばっている変態ドMのおっさんに笑いながら鞭を打つ女王様のような話し方だ。


「うぜぇ声。こいつ相当性格悪いよきっと」


 プルメリアはゴリアテに向かってべーっと舌を出した。


「軍備部の精鋭である飛行部隊員とあろう者が、品性に欠けますね。不適合者です」


「キモ―い」


「ゴミクズが」


 声だけでここまでボロクソ言われるのもちょっと可哀想な気もするが……この声の主は確実に僕達を殺そうとしている奴だ、いいぞ、もっと言ってやれ。いやいや、そんな悠長な事を言っている場合ではない。逃げなくては。


「ゴリアテに見つからないように低空飛行で逃げよう。イシガミ博士が、谷の向こうには森があると言っていた。そこまで行こう」


「了解」


「あいあいさー!」





 一体なんのために僕達は逃げているのか、それすらもよく分からないまま僕は必死に谷底を飛んだ。



 でも、この思いだけはしっかりしている。




 彼女達を、守りたい。


 

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