12*僕は殺すことは出来ない
僕達は全速力で飛んだ。
ゴリアテの主砲から脱すると、次は10機の戦闘機が物凄い速さで僕達を追って来た。戦闘機が放つ機関砲の銃弾が、雨のように僕たちに降り注ぐ。
「サクラ、どうする? このままだと埒があかんで」
アザミが言った。手には、三叉槍をかまえている。
「攻撃はダメだ。人間は僕たちの敵じゃない」
「じゃあどうすればいいのさ」
「逃げよう。固まってると狙われる。連携しつつバラバラに飛んで、敵を撹乱するんだ。ゴリアテは遅いから、戦闘機を振り切れれば逃げられる」
「でも、わたしのスピードではあの戦闘機を振り切れません」
ウメが言った。
飛行技術に関しては、弌式のメンバーの中でもプルメリアがトップだ。プルメリアが本気を出せば、戦闘機をも振り切れる。しかし、僕を含む他のメンバーはそこまで速くない。ここは、小回りで勝負だ。
「地形を利用しよう。この先は深い峡谷地帯だ。そこまで逃げ込めれば、戦闘機も追ってこれない」
「了解。まずはあたしが出て奴らを引きつけるから、その隙に行って」
プルメリアが言った。
「あぁ、頼んだ。でも、無理はするなよ」
「バーカ。サクラの為に無理なんてしないし」
そう言って、プルメリアは高く旋回した。それを追って、5機の戦闘機がプルメリアの後についた。戦闘機は機関砲を撃つが、プルメリアは上手く身体をひねり、回転させ、弾丸を避ける。こんな時にアレだが、華麗に飛ぶプルメリアの姿はホントに美しい……
「今のうちだ、プルメリアが引きつけてくれてる間に一気に峡谷まで飛ぼう!」
「はい!」
「あいつらぁ、もしプルプルに当てたらダリアがぶっ飛ばしてやる」
ダリアは拳をグルグルと振り回した。
「サクラ、もしお前さんがやれと言ったら、うちはあいつらを撃ち落とすけど」
アザミが言った。
確かに、戦闘機を撃ち落とす事は、僕たちにとっては難しい事ではない。寧ろ、逃げるより殺す方が楽だ。
でも、あの戦闘機に乗っているパイロットは、たとえ戦いに身を置いている軍人とはいえ、イシガミ博士と同じ人間だ。僕たちを攻撃してきてはいるが、それは上官の命令で動いているだけだ。そんな人間を、僕は殺すことは出来ない。それに、人間を殺したら、本当に僕たちは犯罪者になってしまう。それは避けなければいけない。今は逃げて、機会を待つ。必ず、誤解は解けるはずだ。
「ダメだよ、あのパイロットだって人間なんだから。僕たちは人間を殺す為に造られた訳じゃない。それに、そんな事したら安心して昼寝出来なくなるぞ。世界中から追われる身になる」
「……それは困る」
アザミはため息をついて、三叉槍を収めた。
「各々谷の底に入って戦闘機を振り切り、この先に見える大きな岩山の下まで行こう」
「了解!」
やっぱさすがプルメリアだな、上手く敵を引きつけてくれてる。僕はさり気なくプルメリアに合図する。
谷に入って、敵を撒くぞ。
プルメリアは小さく頷いた。どうやら理解してくれたようだ。さすが相思相愛の僕たちだ。僕は親指を立ててプルメリアにサインを送った。それを見て、プルメリアはべーっと舌を出した。そして、更に高く飛んだ。
プルメリア、君たちは僕が守る。絶対に。
峡谷地帯が見えてきた。
いくつもの深い谷が、冬場の乾燥肌のように細かく大地を割いている。天にいる神様が、いたずらに大地を掻き回して出来たような地形だ。
「ここで一旦散ろう。谷の底に逃げ込んで戦闘機を撒く」
「了解です!」
峡谷地帯の上空まで来ると、僕たちはそれぞれ谷に向かって下降した。もちろん、戦闘機は追って来る。2機の戦闘機が僕の背後に、ウメ、ダリア、アザミにはそれぞれ1機ずつ背後について僕たちを追ってきた。
戦闘機を操縦するのは、ガンドール帝国軍備部の中でもとくに優秀な選ばれし者達だ。見とれている場合ではないが、とても美しく飛んでいる。そして、正確に狙いを定め、撃ってくる。戦闘機の機関砲から放たれた弾丸が、僕の頬をかすめた。僕は身体を回転させ、向きを変え、戦闘機を撹乱する。
深く潜れば戦闘機は追ってはこれないが、幅が狭い機関砲で狙われやすくなる。注意が必要だ。
僕は更にスピードを上げ、高度を下げた。しかし、戦闘機はまだ着いてくる。
くっ、しぶといな。
すでに、戦闘機の両翼が壁面に触れそうな程に、ギリギリを飛行している。谷底は、すぐそこに見えている。ダメだ、もっと深い谷まで入らないと戦闘機を振り切れない。
しまった!
隙をつかれ、戦闘機に背後を取られた。もう一機は、僕の真上を飛行している。二方向から撃つつもりか。ちょっとヤバいな。こうなったら……
僕は下降し、谷底に着地した。仰向けに寝転んで、地面に手のひらをつける。2機の戦闘機は機体を傾け、機関砲をこちらに向ける。僕は、大地に語りかける。
少し、力を貸して下さい。
谷の両壁から、いくつもの巨大なサボテンが岩を突き破って生えてくる。
これは僕の特殊能力なんだけど——
サボテンから無数のトゲが伸び、まるで蜘蛛の巣に捕まった虫のように戦闘機2機は無数のトゲの網に引っかかった。更に、サボテンはまるで意思を持っているかのように戦闘機に絡みつき、その動きを封じた。
戦闘機は、巨大なサボテンとそのトゲに雁字搦めにされ、空中で静止した。
――僕は、植物ならなんでも自由自在に操れる。
今は、乾燥地帯でも元気に生きるサボテンさんの力を借りた。
ありがとう、サボテンさん。
みんなは上手く逃げ切れただろうか。
早く助けに行かなくちゃ。
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