アポロとラスク

27*後戻りは出来ない



「失礼します」


 ガルディンベルクの国務庁塔、ユグドラシルの最上階。国務庁左大臣室に、ラスクはいた。


「ヴァルセンティア司令官が発見されました。重体とのことです」


 軍備部から上がってきた報告を、ラスクが告げる。


「生きていたか」


 報告を受けたアポロは安堵していた。ヴァルセンティアは、ラスクに次いで優秀な人材だった。優秀な人材を失うのは、帝国の痛手となる。



 今回、エリア69の壊滅の一報が入った際、すぐさま出撃を訴えたのがヴァルセンティアだった。今考え得る最高の軍事力で挑まなければコダマは殲滅出来ない。ヴァルセンティアはコダマの存在に否定的な軍備部の人間でありながら、コダマの強さを冷静に分析し、そう訴えた。軍備部が極秘開発していたゼーラフを出撃させたのもヴァルセンティアだ(ゼーラフの出撃は軍備部内で極秘に行われた為、アポロやラスクはその事実を知らない。先の戦闘で出撃したヴァルセンティア以外の戦闘員やパイロットは全員戦死した為、その事実は外部に漏れなかった)。


 ライネスはゼーラフの出撃を頑なに拒否したが、ヴァルセンティアは有無を言わさずゼーラフを出撃させてしまった。彼女は政治に興味はない。常に考えているのは、どうすれば勝利出来るか、だ。そのしがらみに囚われない純粋さを、アポロは買っていた。しかし、やはりその突飛で特殊な性格には些かの懸念を持ってはいたが。


「それと、試作型コダマの処理は完了しました」


 ラスクは、表情を一切変えず、そう言い放った。


 ラスクにとっては試作型のコダマ達も、プルメリア達と同じように、自分の子供のように育ててた存在だ。辛くないはずはなかった。


「そうか……。しかし、あのコダマ達を一体どうやった?」


「実験と偽り、日光が当たらない地下室に監禁し、その後弱ったところを地下室ごと爆弾で吹き飛ばしました。彼らは私の言うことは素直に聞いてくれますから、簡単でした」


 アポロは後悔した。


 ラスクは頭が良く冷静で的確な判断をする人間だが、決して冷徹な性格ではない。コダマ達にも、情は移っていたはずだ。それを殺させた。なんと酷い事をさせたのだろう。


 やはり、これは私がやるべきだった……。


「まさか、今更怖気付かれたのですか? あの天下無双と名を轟かせたアポロ総司令官もお年を召されたかな」


「なっ!」


 ラスクは、アポロを見下ろしながらニヤリと笑った。


「くっ、いくらお前と言えども口に気をつけろ」


 アポロは大きく背を逸らして椅子に深くもたれた。


「わかっている!」




 もう、後戻りは出来ないことを。



 そして、コダマはお前でなければ倒せないことも。








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