32*とびっきり美人の妖精さんなの


 森の中を1時間ほど歩いた。


 危険な場所はプルメリア達がミーシャをおんぶして進んだ。クラリスは思いの外体力があり、長いスカートをたくし上げてズンズンと進んで行った。


 そのうちに、急に視界が開けた。


「ストップ!」


 先頭を歩いていたプルメリアは、両手を大きく広げて立ち止まった。


「どうしたんですか?」


「こっから先、ナッシングよ」


「え?」


 ウメが恐る恐る足下を覗く。その先は、遥か下、ミニチュアで作ったような大地が見える。つま先の数センチ先は断崖絶壁になっていた。


「うひょー! こりゃ絶景じゃーん!」


「こわぁい!」


 ミーシャはあまりにもの高さに泣き出してしまった。大丈夫だよ、とみんなが寄り添いなだめる。


「どうしましょうか」


 クラリスは周りを見回した。左右横一線はどこまで行っても崖、背後には森しかなかった。


「ケムニッツはどこにあるの?」


「確か、あの山と山の間にあります」


 クラリスは、足下に広がる広大な森を挟んだ向こうに聳える山々を指差した。目指す場所は、あの山々に囲まれた谷にあるらしい。


「それじゃあ、飛んでいけばすぐ着くわね」


「飛んでいく?」


「そ! 鳥のように飛んで行くの」


 プルメリアは振り返りミーシャ達の方を見ると、パチンと手を叩いた。ミーシャはまだ泣いていた。


「さぁミーシャ、これから鳥さんになるから泣くのは終わり!」


「とりさんに?」


「そうよ。鳥さんになってあの青い空を飛び回るの。さぁ、みんなと手を繋いで!」


「うん」


 ミーシャは、隣にいたウメとダリアの間に挟まれる形でふたりと両手を繋いだ。


「さぁ、クラリスさんも」


「は、はい」


 クラリスは、プルメリアとアザミとで手を繋いだ。そして、アザミとウメで手を繋ぎ、6人はひと繋ぎになった。


「それじゃあ行くわよ。熱かったら言ってね」


 プルメリア、ウメ、ダリア、アザミは身体をエーテルで包んだ。すると、クラリスとミーシャもエーテルに覆われた。そして、6人の背中にそれぞれ虹色の翅が出現した。


「わぁ、すごーい!」


「それじゃあ行くわよ。せーのっ!」


「え、あ、ちょっ、あぁ!」


 プルメリアの掛け声で、皆一斉に崖から飛び降りた。心の準備が出来ていなかったクラリスは暫く目を瞑っていた。水の中で身体が浮いているような不思議な感覚。クラリスは恐る恐る目を開ける。大地を覆う緑は遥か下にあり、自分の身体は雲の近くにある。


 すごい、本当に飛んでいる。


 クラリスに反して、ミーシャはジェットコースターに乗っているようにはしゃいでいた。


「すごーい! おねえちゃんたちは、妖精さんだったんだね!」


「そうよ! とびっきり美人の妖精さんなの」


「いいなぁ! ミーシャも妖精さんになりたい!」


「それなら、まずはあたしみたいに美を磨かなくっちゃね!」


「そいでめっちゃ強くなってー!」


「お勉強も頑張らないといけませんね」


「お前ら、テキトーこくな」


「じゃあミーシャ、ぜんぶがんばる!」


「うん、頑張ろう!」


「ミーシャ、おねえちゃんたちに会えてよかった!」


 ミーシャのその言葉に、プルメリア達は微笑んで喜び、そしてその分悲しくなった。





「でもこんな大所帯で飛んでいて目立ちませんか? もし軍備部や治安部隊に見つかったら」


「そん時はまたふたりを眠らせて軍備部の奴らをお星様にしちゃえばいいのよ」


「イェーイ! プルちゃんワイルドーぅ!」




 手を繋いだ6人は、まるで美しい列をなして飛ぶ渡り鳥のように、自由に大空を飛んだ。




 誰も、彼女達を邪魔することなど出来ない。


 

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