33*行かなくちゃいけない場所があるから
森を越え、山を一つ越えると、谷間に小さな可愛らしい家が転々としている場所があった。そこがアムツベルクだ。アルプスに住んでいる女の子を連想させるような情景だ。
プルメリア達は、ボスが言っていた言葉を思い出した。
世界中で、お前達の事を知らないのはエルフィンとヒゲ郎くらいじゃないのか?
こんな山奥でさえ、ネットワークで繋がっている世の中だ。村の人々も、プルメリア達の事を周知しているかもしれない。村人に姿を見られるのは、危険だった。人の姿が見えないのを確認して、村の入り口付近でクラリスとミーシャを降ろした。地面に降り立つと、虹色の翅がゆっくりと消えた。
「本当にここで大丈夫?」
「はい。本当にお世話になりまして……ありがとうございます」
クラリスは、今までで一番長く頭を下げていた。そして、それを見たミーシャも同じようにペコっと頭を下げた。
「もう。たいしたことないから大丈夫だってぇ!」
ミーシャは頭を上げると、プルメリアに抱きついた。
「ここでバイバイなの?」
プルメリアはミーシャの頭を撫でると、膝を折ってミーシャの視線に合わせた。
「うん、ごめんね、ここでバイバイなんだ。お姉ちゃん達は、行かなくちゃいけない場所があるから」
ミーシャは俯いて、涙を流しながら嗚咽を漏らした。そして、その感情を押し込めるように、顔を上げた。
「おねえちゃんたち、また会える?」
プルメリア達は微笑んだ。
「うん、会えるよ。必ず」
ミーシャも、涙まるけになった笑顔で微笑んだ。
「それじゃあねぇ〜!!」
プルメリア達は大きく手を振って、クラリスとミーシャに別れを告げた。クラリスはいつまででも頭を下げていた。ミーシャはプルメリア達に負けないくらい、大きく両手を振っていた。ミーシャの身体に身につけた、プルメリア達からもらった花のアクセサリーがキラリと輝いていた。
クラリスとミーシャは、姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。
出来ればこのふたりには、あたし達の正体がバレないように。
プルメリアはそう願った。
「山しかなーい!」
ダリアが叫んだ。ダリアの叫びはやまびことなって返ってきた。
「飛んで行こうか?」
「そうですね。こんな山道を歩いていたら日が暮れてしまいます」
「次はイッシーの家に行くんだけっけ?」
「はい。イシガミ博士の家があるボンが目的地です」
「そういえば、ボンにあるイシガミ博士の家にお母さんが住んでるはずよね」
「あの優しいキョウコはんか」
「お母さん優しかったのよねぇ、早くあいたーい!」
プルメリア達は、イシガミの奥さんのキョウコによく世話をしてもらった。その為、親がいないプルメリア達はヤスコの事をお母さんと呼んでいた。
「久しぶりよね、お母さんに会うの」
「でも、お母さん……キョウコさんはわたし達ことを恨んでないでしょうか?」
ガンドールの国務庁が発表した内容は、エリア69を破壊したのはプルメリア達ということになっている。必然的に、イシガミ博士を殺したのもプルメリア達という事になる。世間的には。
「そうかもしれないわね。でもまぁ、それはそれで仕方ないわよ。受け入れられるかは別として、お母さんには正直に話してみましょうよ」
「そうですね……でも、キョウコさんに嫌われるのは、正直怖いです」
ウメは俯いた。キョウコは、プルメリア達の数少ない理解者だった。イシガミ博士がいなくなった今、心を許せる人間はキョウコか国務庁のラスクくらいしかいない。
「だいじょーぶだってぇ! ママなら信じてくれるよぉーう!」
ダリアは明るく言い放った。
「そうですよね……」
ウメは笑顔を見せたが、心の中では靄が立ち込めていた。
「とりあえず、ボンに行きましょう」
「ぼんぼんぼー! おー!」
4人は虹色の翅を広げ、大空に飛び立った。
大地が遠ざかり、山の稜線が次第に低くなる。
プルメリアは、後ろを振り返った。
遠くなった村の入り口で、こちらに手を振るクラリスとミーシャの姿が、小さく小さく見えた。
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