34*イシガミ博士の人柄を思わせる



 ボンは、アムツベルクの北にあった。エーテルの翅で一気に飛び、日が暮れた頃にボンにたどり着いた。


 ボンは、緑に囲まれ、その中を澄み切った小川が流れる自然豊かな街だった。街の中には、木製の可愛らしい家がポツポツと間隔を置かれて建っている。家の窓からは暖かい明かりがあふれ、煙突からは煙が立ち上っていた。テクノロジーが進歩したこの時代には珍しい、心がほっとするような街並みだった。それは、どこかイシガミ博士の人柄を思わせるような風景だった。



 プルメリア達は、街の外れにある大きな木の陰からまるでストーカーのように街の様子を伺っていた。


「ってかさ、イシガミ博士の家ってどれだっけ?」


「あっちゃん行った事ないから分かんないよぉ」


「ウメ!」


「えぇ〜、またわたしですかぁ?」


 ウメは記憶の写真フォルダを開いた。


 確か一度、イシガミ博士に家の写真を見せてもらった事がある。ウメは街の様子を観察した。あれも違う、これも違う。こっちは料理店で、あそこは大人の玩具のお店。


「ここからじゃ見えませんね。移動しましょう」




 プルメリア達は、街の周りをぐるっと周り、裏手に出た。


「どう、ウメ?」


「うーん、どれも違いますねぇ」


 ウメは両手で輪っかを作ってその輪の中を覗いていた。


「お腹すいたぁ」


 ダリアは地面にへたれ込こんだ。


「あれ」


 アザミが街の外れにある木々に囲まれて小さな森のようになっている場所を指差した。その森の中から、赤いレンガの屋根がひょっこりと顔をのぞかせている。屋根の上の四角い煙突からは、煙がゆっくりと立ち上っている。



 プルメリア達は足音を忍ばせてその森の家に近づいた。木々の隙間から、家の様子をうかがう。


「間違いありません。イシガミ博士のお家です」


 プルメリア達は大きな音を立てて唾を飲んだ。


「どうする……?」


「行くしかねぇーべぇ!」


「そうですね……」


「行こか……」


 どこから持ってきたのか、プルメリア達は頭に手ぬぐいを巻き、忍び足で家に近づいた。


 こっそり、窓から中を覗く。


 暖かそうなリビングの暖炉には炎が優しく揺れている。しかし、人の影はない。プルメリア達は家の裏手に回った。裏には勝手口があった。プルメリアは勝手口のドアノブに手をかけて回した。ドアノブはきぃと音を立てて回った。プルメリアがゆっくり扉を開けると、みんな扉の隙間から中を覗き込んだ。


「あんたたち」


 突然声がして、プルメリア達は飛び上がって振り返った。







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