35*まるで夢から覚めるように




 そこには、洗濯物を抱えたキョウコが目を丸くして立っていた。エプロンをつけた主婦スタイルだが、長い黒髪が美しい、スタイルの良いモデルのような女性だ。


「お、お母さん」


「どうしたの、そんな変な格好して。あら、服もボロボロじゃない。寒いでしょ、早く家に入りなさい」


「う、うん」


 キョウコはプルメリア達を家に入れると、居間に通し、椅子を4人分持ってきて座らせた。


「はい、どうぞ」


 キョウコは、暖かいココアをみんなの前に置いた。白いマグカップからは、甘い香りと白い湯気が立ち上っている。


「いただきます」


 プルメリア達はマグカップを手に取り、ココアを飲んだ。優しい甘みが口の中で溶け、身体の中に暖かさが広がる。


「お母さん、ありがとう」


「どうしたしまして」


 キョウコはお盆を脇に抱えて微笑んだ。


 プルメリアは、マグカップをテーブルの上に置いて、何かを思い込むように黙った後、ふいに立ち上がった。


「お母さん、あたし達じゃないよ、研究所を壊したの」


 プルメリアは思い切って告白した。胸に仕えているものを吐き出すみたいに。しかしそれに反して、キョウコは無反応だった。


「何言ってんの。そんなの当たり前でしょ。あんた達がそんな悪い子じゃないって事くらい分かってるわよ」


 キョウコは、寝る前に歯を磨きなさいよ、と言うのと同じようなトーンで言った。


 プルメリア達の瞳から、自然と涙が溢れてきた。


 プルメリアは立ち上がり、キョウコに抱きついた。


「お母さん、サクラが……」





 泣くのを我慢していた。


 泣いてしまうと、まるで夢から覚めるように、それが現実だと認めない訳にはいかなくなるから。



 でも、無理だった。



「あぁ。辛かったね」


 キョウコはプルメリアを抱きしめた。



 そして、ウメ、ダリア、アザミも、キョウコに寄り添い、泣いた。





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