31*もしここから出られたら



 鋭い光が瞼を刺し、プルメリアはゆっくりと目を開けた。木々から漏れた光がプルメリアの額を照らしている。身体はまだ、重い。


「うーん……きゃあ」


「おはよー、プルメリア!」


 眠気まなこのプルメリアに抱きついてきたのは、ミーシャだった。顔は埃にまみれているが、太陽のような笑顔をしている。


「ミーシャ。起きてたの?」


「うん、おきてた。プルメリアたちがミーシャとママをたすけてくれたの?」


 プルメリアは微笑んだ。


「そうよ。凄いでしょ?」


「すごーい! プルメリアたちはつよいんだね!」


「えぇ。めっちゃ強いんだから」


「おはようございます。助けて下さって、本当にありがとうございます」


 クラリスは深く頭を下げた。


「そんなぁ、一緒に牢にぶち込まれた仲じゃないですか」


「それもそうですね」


 プルメリアとクラリスは顔を見合わせて笑った。




 ウメ、ダリア、アザミはまだ眠っていた。プルメリアは3人を叩き起こすと、朝ごはんを作らせた。ウメが動物の肉や木ノ実、果物を採ってきて、ダリアが火を起こし、アザミが調理をした。ダリアはエーテルを使い派手に火を起こした為、炎が天高く舞い上がり、危うく森が腐海と化す寸前となった。しかし、魔法のようなダリアの火起こしに(実際は魔法のようなものなのだが)ミーシャははしゃいで喜んだ。アザミにはどうやら料理の才能があるらしく、肉やキノコを焼いただけの料理になのにとても味が良く、みんな喜んでアザミの料理を食べた(一説には、アザミの特殊能力のエーテルで味を調節していた疑いがある)。


「ごちそうさまでした!」


「美味しかったです。ごちそうさまでした」


 ミーシャは朝ごはんを食べ終えると、ダリアとアザミを巻き込んで森を駆け回ったり木登りしたりした。


「フゥー!」


「きゃー!」


 ダリアは5歳の女児の同じレベルで騒いでいる。プルメリアとウメ、クラリスは大きな木の下に座りながらその光景を眺めていた。


「お家はガルディンベルクだったよね」


「はい、そうです」


 プルメリア達はふたりをガルディンベルクにある家まで送って行きたかったが、ガルディンベルクまで一緒に行くとふたりに危険が及ぶ可能性がある。ガルディンベルクまでは送って行けないが、せめて治安部隊が安全に保護してくれそうな比較的大きな街や、ガルディンベルクに繋がっている鉄道や航空便がある街まで送って行こうと考えていた。


「ガルディンベルクまで送って行きたいけど、あたし達も行かなきゃいけないところがあって、ごめんなさい」


「あ、いえそれは……」


「でも、近くまでは送らせてもらいますから!」


「ここからいちばん近場にあり交通の便が良い街は……」


 ウメは、記憶の本棚に入っている大判の紙の地図を広げた。ウメはよく、エリア69の図書室で地図を眺めていた。もしここから出られたら、この街に行って美味しいものを食べ、この場所の景色を見て、帝国図書館で好きなだけ本を読む。机の上に広げた紙の地図の上で、世界各地を旅していた。


「ケムニッツという街まで行けば鉄道が走ってますから、そこまで行けば安心かと思われます。ケムニッツには治安部隊の支部がありますし、小さいですが軍備部の基地もあるので」


「いや、そこには行けません」


「え?」


「あ、いえ。ケムニッツから南東方にアムツベルクという村があるのですが、そこに行こうと考えております。その村に親戚が住んでいるので、そこで少し身体を休めたいと思いまして」


「そうですよね、1ヶ月もあんなところに閉じ込められていたのだから休養が必要です」


「じゃあ、そのケムニッツってトコまで送っていくよ!」


「いえ、ケムニッツは山の奥にありますし、そこまでして頂くのは……」


「大丈夫大丈夫! さぁ、行こっか!」


 プルメリアはウサギのように飛び跳ねて起き上がった。


「ミーシャ! 行くよ!」


「はーい!」


「はーーーい!」


 ミーシャと同じように返事をしてダリアも駆けてきた。走ってきてそのまま、ダリアはプルメリアの背中にダイブした。


「おんぶ〜!」


「お前は歩けや!」


 プルメリアはダリアを背負い投げで投げ飛ばし、ミーシャの手を握った。


「さ、行こっか」


「うん!」




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