23*わたしが獲ってきた肉じゃ不服?




 プルメリア達はSMプレイ用のアイマスクで両目を覆い、亀甲縛り用の縄で手首と胴体を縛られ、4人お互いに繋がれた状態で1列になって、縄で引かれる状態で森の中を歩いていた。


 先頭はヒゲ郎が4人を縄で引っ張りながら歩き、後方をエルフィンが警戒しながら進んだ。



 エルフィンは、アイマスクを被せることによりプルメリア達がアジトの位置を把握出来ないように計らったつもりだが、それは無駄な事だった。


 プルメリア達は、人間より遥かに優れた五感を備えている。視覚を1つ封じられても、まるで実際の目で見ているように空間認知する事が出来た。それは、武芸を極めた者が言う、心の目で見る、という達人の境地に近いのかもしれない。なので、例え今、エルフィンが後頭部からピストルで撃ってきたとしても、すぐに反応し、避ける事が出来るし、少しでも殺意を見せれば返り討ちにする事が出来る。プルメリア達にとって人間を殺す事など、虫かごに入れられたGを強力な殺虫剤で殺すくらい容易い事だった。


「そういえば兄貴、明日は大陸横断列車の強奪班が帰還する日ですね。お宝ガッポリだ」


「あぁ。奴ら、しくじってないといいがな」


 そう話していたエルフィンとヒゲ郎の会話を、プルメリア達は聞き逃さなかった。


「(ひそひそ)聞いた? お宝ガッポリだって」


「(ひそひそ)えぇ。皆殺しにしてお宝を頂くのは、明日の強奪犯が帰ってきてからにしましょう」


「イエーイ! がっぽりがっぽりー!」


「(ひそひそ)お宝の質によっては、イデアまでの旅費を一気に稼げるかもね。ちょっとリッチな旅になるんじゃない?」


「(ひそひそ)そうですね。野宿はしなくても済みそうです」


「やったー! 高級ホテルに泊まってお風呂入りたーい!」


「(ひそひそ)そうね、そろそろお風呂入んないとエルフィンやヒゲみたいに臭くなっちゃうわ。」


「あ?」


 後ろから、エルフィンのキレ気味の声が飛んで来る。


「なんでもありませーん。ってか腹減ったー」


「減ったー! 生肉食わせろー!」


「(ひそひそ)食料ならわたしがハントしてきますよ♡」


「(ひそひそ)えー、たまにはしゃぶしゃぶ食べ放題とか行きたいじゃん」


「(ひそひそ)わたしが獲ってきた肉じゃ不服……?」


「(ひそひそ)せっかく大金が手に入るんだからさー。せっかくならどっか食べに行きたいじゃん」


「(ひそひそ)それより」


 肉トークを、アザミが遮った。


「(ひそひそ)あのエルフィンっちゅう男、プルメリアの制服を見ただけでうちらが国務庁所属やって気づいたやろ。この服のままじゃバレバレやで。目立たん服も用意せなあかん」


「(ひそひそ)確かにそうですね、これでは捕まえてくれと言っているようなものです。どんな服にしましょうか、わたしはワンピースがいいなぁ」


「ダリアはナース服にするぅ!」


「(ひそひそ)あんたそれただのコスプレじゃない。あたしはヴィヴィアンの財布買おうかなー」


「(ひそひそ)お前ら、イデア行く気ないやろ?」








 道なき道を、20分くらい歩くと、木々の影に隠れた洞窟に辿り着いた。


 小さな入り口で、内部は真っ暗でその様子を伺い知ることは出来ない。ヒゲ郎は迷う事なく暗い闇の中へ進んでいく。洞窟に入る時、エルフィンは素早く周りを見回した。木々の影に潜み、こちらの様子を伺う刺客を探す為だ。しかし、そんなものは存在しない。森の上を駆け抜ける風に、木々の枝の葉が、手を振る様に揺れていた。


 洞窟の中は人1人が通るのがやっとの幅で、灯りもなく真っ黒だ。先頭を歩くヒゲ郎は懐中電灯で地面を照らして進んで行く。洞窟の内部にはいくつも分岐があり、まるで迷路のようだ。


 途中、ヒゲ郎が歩みを止めた。


「兄貴、こっちでしたっけ?」


「そっち行ったら一生出てこれねぇぞ。左だ」


「ちょっとヒゲ、しっかりしてよ! あたし達を殺す気?」


「す、すいません……叩くなら鞭か蝋燭でお願いします」



 洞窟に入ってから1キロほど歩いただろうか、突然、大きな空間に出た。ほのかな灯りもある。その空間はホール状になっており、何やら鉱山で使われるような設備が置かれている。


 天井には竪坑が伸び、遥か上の方にバスケットボールくらいの大きさの光が見える。どうやら、この竪坑の先の地上から、強奪してきた金品をこのアジトに搬入する仕組みらしい。ただの盗賊にしては手が込んでいる。恐らく、ここのボスは用心深い人物なのだろう。お宝にも期待が持てそうだ。


 搬入部屋を過ぎると、照明が備えられている為明るく、人の気配も感じるようになった。暫く細い通路を進み、ある部屋に通されると、アイマスクと縄を解かれた。


「ここに入ってろ」


 連れて来られた部屋は、12畳くらいの広さで、天井が低く、薄暗い空間だった。ゴツゴツとした岩の壁は、光のグラデーションにより不気味に見える。空間の奥の方は、はめ込まれた鉄格子で仕切られていた。そこは、盗賊達が捕らえた獲物を閉じ込めておく牢屋だった。


「あ……」



 牢屋の中には、先客がいた。


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