プルメリア達
16*約束、守れなかったよ
プルメリアは、その黄金色に輝く瞳の中に、頭部を食いちぎられるサクラの姿を映していた。
サクラが宙吊りにされた軍人を助けようとしてピエロの胴体を追いかけた時、後ろからピエロの頭部がサクラに飛びかかり、その不気味で大きな口を開け、サクラの頭部を丸ごと口の中に収め、その鍾乳石のように鋭く尖った歯でサクラの首を食いちぎった。
サクラの胴体はそのまま大岩山のてっぺんに落下し、ピエロの頭部はそのままの勢いで飛び、吊るされていた軍人の身体を無造作に噛みちぎると、ピエロの胴体と共にゴリアテの内部に収容された。その後すぐに、ゴリアテは主砲を大岩山に向けて放った。大地が、光に包まれ、サクラの胴体は、大岩山と共に塵と化した。
プルメリアは必死に手を伸ばした。
しかし、その手が届くことはなかった。
プルメリアの瞳の中で、サクラの頭部を失った胴体は、炎に包まれ、消えた。
プルメリアはその一瞬にして、全ての色彩を失い、音を無くし、心の中に灯っていた微かな光を、消した。
全てが、無と化した。
サクラ……?
ゼーラフが、プルメリアに飛びかかってきた。でも、そんなのはどうでもよかった。プルメリアは襲いかかってくるゼーラフを見る事なく、裏拳打ちでゼーラフの頭部を吹き飛ばした。黒い肉片が、花火のように宙に飛散する。
プルメリアは、ゴリアテを見ていた。
サクラ……
あいつが、サクラを奪った……
サクラを……返せ。
次の瞬間、プルメリアは飛んでいた。ミサイルのようにゴリアテの底に突っ込む。そのままの勢いで拳でゴリアテの底に穴を開け、内部に侵入する。
「て、敵だぁ!」
その場にいた軍人が、マシンガンを放つ。プルメリアは素早くかわし、軍人の首を掴んだ。
「サクラはどこ?」
「あが、ががが……」
「どこに居るかって聞いてんだよ」
軍人は、首を強く握られ声を出す事が出来ない。次第に、顔色が変わってくる。軍人は、首を絞める手を必死に振り解こうと、プルメリアの腕を掴み、がむしゃらに力を入れる。軍人の指の爪がプルメリアの白い肌に食い込み、赤い血が流れ、滴り落ちる。
サクラは殺すなって言ったけど……こんなゴミみたいな奴ら、生かしておく必要ないでしょ。
ねぇ?
プルメリアはそのまま手に力を入れ、軍人の首を握り潰した。真っ赤な血液が飛び散り、軍人の頭部が鈍い音を立てて床に落ちる。プルメリアは床に転がる頭部を踏み潰した。
プルメリアは、ゴリアテの内部を幽霊のように彷徨い、乗組員の軍人を次々と殺し、サクラを探した。
サクラ、
サクラ、
サクラ……
ゴリアテの内部の細い通路を足早に進む。軍人達が銃火器を放ち、プルメリアを攻撃する。しかし、小型の銃火器はプルメリアに通用しなかった。
「うわぁぁぁ、く、くるなぁ!」
プルメリアは軍人が持っていた銃火器の銃口を素手で掴むと、それを取り上げ、軍人の目ん玉に突っ込んだ。プルメリアはそのまま銃火器の引き金を引く。銃火器が目に刺さった軍人は、脳髄をぶち撒け、その場に倒れこんだ。
艦内での戦闘は激化し、至る所で出火していた。最早、ゴリアテは沈むのを待つだけの泥の船と化していた。
どれだけ探しても、サクラはいなかった。
プルメリアはゴリアテのコックピットに入り、操縦士達の首をへし折り殺した。すると、コックピットの大きな窓の外に、ゴリアテから逃げるように飛んでいく小さなミサイルのような形をした飛翔体が見えた。おそらく、緊急脱出用の小型航空機だ。
プルメリアは手に黄金色の剣を出現させ、それを飛び去って行く小型航空機目がけて投げつけた。黄金色の剣はコックピットの窓を突き破り、空を切り、遥か彼方に輝く小型航空機に命中し、小型航空機は空中で破裂した。
「サクラ……」
プルメリアは燃えるコックピットの中に立ち尽くし、一筋の涙を流した。
7体のゼーラフと、後に応援に駆けつけてきた後方部隊を全滅させたウメ、ダリア、アザミは、炎に包まれて落下していくゴリアテを眺めていた。
ウメ、ダリア、アザミも、サクラが頭部を食いちぎられる瞬間を目にしていた。その瞬間、彼女達もプルメリア同様、全てを失ったのだった。
箱庭の中に囚われ、死を待つだけの、生きていくことに何の希望も見出せないプルメリア達にとって、笑顔で明るく活き活きとし、いつも優しく接してくれるサクラは、彼女達にとって唯一の光だった。サクラを見ていると、自分達も生きていてもいいように思えてくる。一瞬でも、この先楽しい事が起こるんじゃないかと、希望さえ抱ける。サクラは、この世界を暖かく照らす、太陽のような存在だった。
サクラは、自分がそんな風に想われているという自覚があったのだろうか。今となってはもう、確かめようもない。
サクラを失ってからは、もうどうでもよかった。とりあえず、危害を加えようとしてくるゼーラフと人間を殺した。跡には、荒地に燃える機体の残骸と、青い空だけが残っていた。
ウメ達は、何も言葉を発しなかった。
暫くすると、プルメリアがゴリアテの残骸の方から歩いてきた。
プルメリアは、ウメ達のそばまでくると、電池が切れたおもちゃのようにそこに立ち尽くした。ウメもその場にうなだれているだけだった。荒い風が、彼女達の髪を乱した。ほつれたスカートの裾がひらひらと風に揺れた。
どこからか、ピンク色の花びらが一枚、風に乗って飛んで来て、プルメリアの足元に落ちた。そしてまたすぐに風に吹かれ、空に舞い上がった。
プルメリアは、少しだけ視線を上げた。
「行こっか」
ごめん、サクラ。
あたし達は、約束、守れなかったよ。
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