1*その荒野の向こうに存在する、果てしなく広い世界




 世界は平和になり、そして僕たちは不要になった。




 ここは、ガンドール帝国の特殊軍事要塞エリア69。通称、空庭。


 見渡す限り何もない、だだっ広い荒野の真ん中に、ポツンと存在している。ポツンって言っても、その規模はかなり大きい。だだっ広い荒野に対してはポツン、という意味だ。1つの都市くらいの大きさはある。


 エリア69は軍事施設の他に、一般市民が暮らす居住区も存在する。この軍事要塞は外から見ると、まるでアフタヌーンティースタンドのような形をしている。大きく分けて三層に分かれており、1番下のお皿が一般居住区、真ん中が軍用、そして1番上が国務庁管轄の研究施設となっている。その中で僕たちは1番上のお皿に住んでいる。


 1番上と言っても、べつに僕たちが偉い、という訳ではない。どちらかと言えば、飼われているというか、隔離されているというか、拘束されている、というか。まぁ、ある程度の自由はあるから拘束は言い過ぎかもしれないけど、右手を大きく掲げて自由だー! と叫べるほどの自由でもない。



 ぶっちゃけて言うと、僕たちは軍用に開発された人造人間だ。




 この世界には邪神ラオム・アルプトという悪者が存在しており(そいつの詳細は未だ分かっておらず、どこから来て、何を目的で破壊するのか、全ては謎)、一般の兵器では歯が立たない事から、特殊エーテル兵器として僕たちは造られた。


 そうそう、言い忘れていたけど、僕の名前はサクラ。名付け親は僕たちを造ってくれた研究チームの責任者、イシガミ博士だ。正直、人間達は皆僕たちの事を化け物のような目で見るけど、イシガミ博士は実の父親であるかのように僕たちに接してくれる。まぁそれが本心からか仕事としての役割なのかは分からないけど、それは考えない事にしてる。




 それにしても、ここ第3階層は素晴らしいでしょう? 軍事要塞の頂上とは思えない、美しい庭園が広がっている。この見事な空中庭園が、エリア69が空庭と呼ばれている所以である。


 無駄に寝転びたくなるような柔らかい若緑色の草原と、小さな池と川、綺麗な花も沢山咲いている。まぁ、庭園の周りは高い金網に囲まれてるから、監禁されてる感は拭えないんだけど。


 あ、ちょうどその金網に向かって、外の荒野を眺めている女子がいる。手元にこんな豊かな緑があるというのに、何もない遠くの荒野を眺めているこの一風変わった女の子は、プルメリアという。


 緩くパーマがかかったショートカットの金髪に黄色い花の髪飾りをつけている。正式に言うとこれは髪飾りではないのだが、まぁそれは後々説明する。服装は、真っ白なブラウスの上に黄色のラインが入った白いブレザーを羽織り、同じく白くて黄色いラインが入ったスカートを膝丈で穿いている。


「あ、サクラ」


 あ、こっちに気づいたようだ。黄金色に輝く、少し強気な印象を受ける美しい瞳が僕を見つめて——いや、睨んでいるのか?


「こんなところで何してるのよ」


 少し頬を膨らませ、不満そうに言い放つプルメリア。


 僕がここに居ちゃいけないのか。ただでさえ、この金網の中でしか行動が許可されていないのに、ここまで奪われたら僕の居場所はなくなってしまう。


「プルメリアこそ何してるんだよ。荒野を眺めても何もないだろ?」


「ハイエナ達の生態を観察してんだよ。悪いか」


 そう言って、プルメリアはまた金網の方を向いてしまった。




 僕は知っている。


 プルメリアが金網の向こうに見ているのはハイエナなどではなく、その荒野の向こうに存在する、果てしなく広い世界だということを。見ている、と言っても実際に見えている訳ではない。ここから見えるのは、せいぜい地平線の上に並ぶ岩山くらいだ。


 プルメリアは、心の目でその先に広がる景色を想像して見ていた。まるで、某巨人漫画の主人公が壁の外の世界を夢見ているみたいに。




 先ほど言ったように僕たちは監禁されている身だから、この金網の外から出ることは許されていない。


 ここは最上エリアの為天井はなく、頭上に広がる空は開け放たれており、周りを覆う金網自体は3メートルほどの高さのもので、頑張れば乗り越えられなくはない、のだけれど、まぁ当然のごとく見えないバリアで覆われている。万が一脱出しようものなら、第2階層にいる軍備部の人達が最新兵器でもって総攻撃してくる。


 それでも逃げられなくはないのだけど、僕たちの中に規則を破り脱出しようなんて考える者はいない。それは、このガンドール帝国に忠誠を誓っているからではない。僕らを創り出してくれた、言わば親みたいな存在のイシガミ博士を悲しませたくないからだ。まぁ、みんながどう思ってるか本当のところは分からないんだけど、少なくとも僕はそう思ってる。


 でも、このプルメリアは、やはり外の世界への憧れが強いようだ。言葉に出さなくても、見てれば分かる。


 出来る事なら、一度でもいい、に、こんな造られた箱庭の世界なんかじゃなく、美しい外の世界を見せてあげたい。


 と言う僕も、実際に外の世界を見たことはないんだけど。モニターに映し出された、映像の中の世界しか僕たちは知らない。




 彼女達、というのは、僕がよく連んでる人造人間仲間のことだ。


 そうそう、僕たち人造人間の正式名称は、『対ラオム・アルプト人型エーテル兵器(通称・コダマ)』で、僕たちはその実戦型弌式いちしき


 研究に研究を重ね開発された、最新型だ。


 しかし、先のラオム・アルプト襲来時に、僕たちより先に開発された先輩方(対ラオム・アルプト人型エーテル兵器試作型零式)、所謂プロトタイプの人達が先に出撃した結果、あっさりとラオム・アルプトを殲滅してしまった。


 これは、ラオム・アルプトが想定より弱かったのではなく、先輩方が想定外に強かった、という事だ。


 結果、僕たちはこのエリア69から出ることすらなく、役目を終えてしまった。


 使われる前にお役御免となった僕たちの処遇については、帝都ガルディンベルクにいる国務庁のお偉いさん方が話し合っているところだ。


 解体されて処分されるのか、実験体として研究されるのか、はたまた対人兵器として使われるのか、どうなるのか分からないけど、僕たちはそれを受け入れるしかない。


 でも、プルメリア達を見ていると、僕たちの定められた運命はとても残酷なもののように思える。


 でも、僕には、どうすることも出来ない。






 そうそう、他のメンバーを紹介しよう。


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