2*僕たちが生まれ育った家
弌式には、僕とプルメリアの他にあと3人いる。
男は僕だけで、他はみんな女子だ。大体、みんな別々にそれぞれお気に入りの場所を持っており(例えばプルメリアなら金網の前)、戦闘訓練や実験、メンテナンスがない自由時間は各々そこで個人プレイに興じている。
あまり協調性のない連中なのだ。
僕はプルメリアにもう行くからね、と言い(プルメリアは返事をせず、あっち行けと言わんばかりに手をひらひらと振っただけだった)金網を背にしてこの空中庭園の中心に向かって歩き出した。
暫く歩くと僕は立ち止まり、振り返った。プルメリアは相変わらず、金網の向こうを眺めていた。黄金色の髪が、美しく風になびいている。プルメリアに冷たくあしらわれるのは嫌ではない。
寧ろ、最近は心地よく感じるようになってきた。
第3階層である空中庭園の真ん中には、青白く輝く30階建の円錐型の塔があり、そこがエリア69の天辺に位置する建物であり、このエリア69の核となる国務庁管轄特殊研究所エリア69支部だ。まぁ簡単に言えば、僕たちが生まれ育った家ってことだ。
庭園は広いので動く歩道が整備されており、塔の入り口からまっすぐに動く歩道が伸びている。
僕は動く歩道に乗り、手摺に手を置いた。目の前に、青白い塔が迫ってくる。昼間だというのに、青白く輝く不思議な外観の建物だ。
塔の入り口は、大きなガラスの扉になっていた。もちろん、高度なセキュリティーがかけられている。僕は、扉の横にあるパネルに右手をかざした。ガラスの扉は何事もなかったかのように、静かに開いた。
ガラスの扉の内側は白い壁に囲まれた小さなホールになっている。正面の壁には、大きな国務庁の紋章のオブジェが掲げてある。人の姿はない。この研究所は国家機密の塊のような施設である為、選ばれた者しか立ち入る事が許されていない。なので、人の姿も疎らだ。
第1階層と第2階層では狭い中に一般市民と軍人がソールドアウトしたライブ会場のように詰め込まれているというのに、この第3階層は随分贅沢な使われ方をしている。あ、ライブ会場はちょっと言い過ぎたかな。
さて、誰から探しに行こうか。
まず確実に居場所が分かるのは図書室にいるウ——と考えながら階段を上ろうとしたところで、上からスーツ姿の若い男性と女性が降りてきた。
「やぁ、サクラ君。調子はどうだい?」
栗色の髪を後ろに流したヘアースタイルでバッチリきめ、爽やかな笑顔でそう言ったのは、ガンドール帝国国務庁のラスク右大臣様だ。
穏やかで整った顔立ちで、背も高い。スーツ姿も、まるで紳士服のコマーシャルに出演してるモデルのように良く似合っている。年齢はまだ20代後半なのに、ガンドール帝国の実質ナンバー2という、ラノベの主人公かよと突っ込みたくなるくらいのチート男子だ。
優しく、性格も良くて僕たちコダマの事も気にかけてくれるラスクさんの事は大好きなんだけど……、一般兵として軍備部に入ってリニア新幹線のように超スピード出世した男だ。油断は出来ない。裏で何かやっているのかもしれない。こんな爽やかな笑顔で、次々と上官のお茶に毒を盛ったりしてたのかもしれない。
「ラスクさん、お気遣いありがとうございます。コンディションは万全です」
「それは良かった」
優しい笑顔で微笑むラスクさん。
「コンディションはバッチリなんですが、使い道がないもので。日中身体がムズムズしてますよ」
冗談めかして言ってみる。
「それは困ったな。大丈夫、君たちの力はまだまだこの国に必要だ。その時までに、訓練と体調管理を頼むよ」
「はい、了解しました」
ラスクさんは僕の肩にぽんと手を置き、そしてホールの方に歩いて行った。ラスクさんの後ろにいる女性、スーツに黒縁メガネ、アップにした黒髪が知的な印象を与えるチョココさんは笑顔で会釈してラスクさんの後について行った。
僕はチラッとラスクさんとチョココさんの方を振り返ってその後ろ姿を見た。
チョココさんは若くて可愛らしい容姿なのに、大臣補佐官という官職に就いている国務庁のお偉いさんだ。ラスクさんの話しによると、仕事の出来るとても優秀な女性らしい。
チョココさんは黒縁メガネの奥の瞳がくりっとしていて童顔なので若く見えるけど、一体何歳なのだろう? 気になるけど、女性に年齢を聞くのは野暮ってもんだ。女性とお付き合いしたことのない僕にもそれくらいは分かる。紳士の嗜みだ。
チョココさんはあまり喋らず冷たい印象を受けたりするけど、それがまた良かったりするんだよな。チョココさんのような年上のクールなお姉さんにベッドの上でいじめられてみたいものである。
それにしてもラスクさんは常にチョココさんと一緒にいるけど、チョココさんみたいな女性がタイプなのだろうか。
童顔が好みの、ロリコンなのだろうか。
それなら、プルメリア達(人間の年齢で言うと13歳の少女)の事も性的な目で見ているのだろうか。案外、ああいうデキる男が真性のロリコンだったりするんだよな。淫行とかで失脚しない事を祈るばかりである。
そうだ、ついでに説明しておくと、ラスクさんの上司で実質ガンドール帝国のナンバー1であるアポロ左大臣という方がコダマによるラオム・アルプト殲滅計画の立案者であり、最高責任者だった。その成功で今のポジションを確固たるものにし、アポロ左大臣をサポートしたラスクさんもまた高く評価された。
ちなみに、アポロ左大臣は年齢は50代前半のおじさまで、ラスクさんとは正反対の硬派な感じだ。アポロ左大臣も軍人上がりで、その事もラスクさんと通じるものがあるのだろう。アポロ左大臣はラスクさんの事を可愛がっているようだ。
まぁ、おじさん達の説明回はこれくらいにして、次は本題である弌式のメンバーを紹介しようかな。
図書室、図書室っと……。
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