18*さらにその奥にある神秘の密林




 食事を終えると、焚火を消してみな横になった。


 落ち葉など、比較的柔らかそうなものを集めて地面に敷いたけど、ゴツゴツした土の上で寝ていることには変わりなく、身体中が痛かった。


 仰向けになって空を見上げると、木々の葉の隙間から、真っ黒な空に無数の星が輝いている。


「ぷるぷるちゃ~ん」


 ダリアはゴロゴロと転がり、プルメリアに抱き着いた。


「くっつかないで」


「いいじゃないあ~ほれほれ!」


 ダリアはプルメリアの細い脚に手を這わせ、スカートの中に手を入れて太ももを撫でた。


「やめんかい!」


「いいではないか~ほ~れ、ほ~れ」


 しだいに、ダリアの細い指先がプルメリアのスカートの奥にまで這い寄り、指先が、下着の中に潜り込んだ。ダリアの指は、さらにその奥にある神秘の密林に————


「あっ……、こ、こら、やめ……やめろやこらぁ!」


「いててててて!」


 プルメリアはダリアの頬を両手で引っ張った。


「このやろぉ、肉団子にして食ってまうぞゴラァ」


「う~痛いけど気持ちいい~もっとして~」


「これがSMプレイというやつですね!?」


 ウメはどこからともなくメモ帳を取り出し、プルメリアとダリアがじゃれ合う様子を仔細に記録した。


 アザミは目を瞑ってあくびした。








 やがて、皆静かになった。


 それに入れ替わるように、森に潜む虫たちが、まるで一晩中フェスでも開催しているかのように騒がしく鳴き出した。



「これからどうしますか?」


 ウメが言った。


 どうしよう? プルメリアは自分に問いかけた。


 もちろん、答えは出ない。


「うーん、どうしよっかねぇ」


 ダリアは足をバタバタさせて言った。


「やはり、軍人さんも沢山殺してしまいましたし、大人しく捕まって罰を受けるべきなのでしょうか……」


「まぁ、相手から喧嘩売ってきたとはいえ、人を殺してしまったからにはうちらは犯罪者やからな。もうどうにもならへん」


「でもぉ、それもなんか納得いかないよねぇ」


「そうです!」


 ウメは上半身を起こして言った。


「やっぱりわたし、このままでは納得できません! 出て行って、しっかり説明しましょう!」


「人間は聞く耳持たへん」


 アザミは目を瞑ったまま言った。


「あ、アポロのおっちゃんとラスクに頼めばいいんじゃね?」


 ダリアがブリッジをしながら言った。


「それも考えたのですが、アポロ左大臣やラスク右大臣はコダマ計画の責任者なので、今回の事の責任を取らさせることになると思います。最悪、死刑ということもありえます」


「えー、それカワイソウじゃん!」


「はい、だからせめて、エリア69で起こった事の真実だけでも、正しく伝えないと。それに、ラオム・アルプトだって、また現れる可能性があります。対策を講じなければ、エリア69よりも更に甚大な被害が出てしまうかもしれません。やはり、みんなで出て行ってしっかりと説明しましょう!」


「無駄やて。うちらの言う事信じてくれる人間なんかおらへん。それに、よく考えるウメなら、一番良く分かってるやろ。お偉いさん達にとってこれはチャンスなんだよ。今回の件で劣勢となったアポロはんを一気に降ろし、自分たちがのし上がる為の。ガンドールの役人はみんなそう思っとる。隙あらば堕とす。とくに今はアポロはんと軍備部が仲が悪いから、尚更や。真実なんてどうでもいい。ラオム・アルプトがいてもいなくても関係ない。役人は自分のことしか考えてないんやから。出て行って説明しても、一切聞き入れてもらえずに殺されるだけや。この国にはもう、うちらの居場所はないよ」


「まぁ、もともと居場所なんてなかったようなもんだけどねぇ! あはは」


「それでも……!」


 ウメはその続きを言おうとして飲み込み、うなだれて、再び横になった。もうどうにもならない事は、自分がいちばんよく分かっている。


「プルプルちゃんはどー思う?」


 ダリアがプルメリアに聞いた。


 あたしは、どう思うのだろう? そう考えた時、またサクラの笑顔が浮かんだ。






 この世界の果てに、イデアと呼ばれる理想郷があるんだ。





 そこでは、人間同士はもちろん、動物や昆虫でさえ互いの存在を尊重し合い生きているんだ。決して無益な争いごとなどしない。助け合い、支え合いながら生きている。自然には四季があり美しく、肥沃な大地は豊富な作物を与えてくれる。



 単なる兵器としてではなく、ひとつの生命として認めてもらえるんだ。それだけで、どんなに幸せだろうな。




 いつかみんなで行こう、理想郷に。












「行こっか。理想郷に。みんなで」



 サクラも一緒に。









 皆、サクラの顔を思い浮かべた。






 そうだ、わたし達の居場所なんて、もともと何処にもなかった。



 帰るべき場所もない。



 生きる理由すらも。


 


 もしそのようなものがあるとすれば、それは、サクラの心の中だけ……







 プルメリアの言葉で、ウメは、心の中に張っていた糸がほぐれ、先ほどまで強張っていた表情が、和らいだ。


 皆、安らいだ表情に変わっていた。



「はい、行きましょう」


「いこういこーう!」


「あぁ、そうしよか」





 4人は静かに瞳を閉じた。





 星が煌く夜空に、一筋の青い光が流れ落ちた。




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