15*君も人間に利用されているだけなのだろう
「みんな、やれるか?」
プルメリア達に問いかける。
「いつでもどーぞ」
「本気でいきます!」
「けちょんけちょんのびちょんびちょんにしてやるぅ!」
「余裕や。早く殺って寝る」
みんな、こんな事になって申し訳ない。
もうちょっとだけ、頑張ってくれ。
「よし、構えろ!」
僕はピンク色の大鎌を出現させた。その時だった、少し離れていたゴリアテの搭乗口が開き、黒い大きな影が飛び出し、僕達の方に向かってきた。
それは、黒い翼に包まれ、おおきな卵型をしていた。
黒い卵のような物体は、ゼーラフ達が旋回する円の中心に来ると、そこで静止し、そしてその翼を開いた。
なんだこいつは……
黒い翼は左右に3つずつついている。その中心にある身体は、人間の様な形をしており、肌は黒く、筋肉質だ。黒地に謎の赤い文字が書かれた趣味の悪いローブを古代ローマ人のように身にまとっている。顔はピエロの面で覆われておりその表情は窺い知れないが、やたらおおきな口だけは露わになっている。
実に不気味だ。
気味が悪い。
一体、どんな魔獣を使ったらあんな変なのが出来るのだろうか。
僕は、イシガミ博士の下に生まれて本当によかった。
もしプルメリア達があんな姿をしていたら、さすがに萎える。
ピエロが翼を開いてその姿を露わにすると、8体のゼーラフ達はまるで風のなくなった風車のように徐々に動きを緩めていった。
「くるぞ。僕はあのキモピエロをやるから、みんなは他のを頼む」
「あいよ」
みんなが一斉に飛び立った次の瞬間、ピエロの顔面が目の前に迫っていた。
口を大きく開けている。
その大きな口から唾液が飛び、僕の頬に付着した。
僕は身体を横に投げ出して避けた。
まさかこいつ、僕を食おうとした?
キモ過ぎる。
ピエロに視線を外さずに、周りの様子を伺う。みんなゼーラフと距離を取りつつ、上手く闘っている。
よし、大丈夫だ。
僕はこいつを倒す事に専念しよう。
しかし何なんだこいつは。戦う前から分かる禍々しいエーテル。そしてこの速さ。強さが桁違いだ。視線を外したら、即殺される。
ピエロは、拳で殴りかかってきた。僕はそれを大鎌で受け止める。もの凄い衝撃だ。手が痺れ、足が地面に食い込んだ。だが、受け止められない威力ではない。まぁ、相手も本気じゃないかもしれないけど。そりゃ!
僕は大鎌でピエロの拳を弾き返し、ピエロが仰け反ったところに間髪入れず攻撃を仕掛ける。ピエロは、身体を逸らした状態で僕の攻撃を拳で受け止める。そして、反対の手で僕の腕を掴んだ。
「げっ!」
ピエロの背中に生えている左右3つずつの黒い翼の先端がまるで鋭い刃となり、僕の身体を突き刺そうとしてきた。僕は大鎌を消すと手刀で僕の腕を掴んでいるピエロの腕を切り落とし、身体を滑らせるようにピエロの股の間を潜り抜け、ピエロの背後に回り込んだ。
君も人間に利用されているだけなのだろう?
出来れば傷つけたくなかったけど、ごめん。
僕は再び大鎌を出現させ、ピエロの胴体を斬り、その斬った勢いでもう一回転して今度は首を刎ねた。
ピエロは、下半身、胴体、頭部と3つに分かれ、地面に転げ落ちた。いや、まだだ。ゼーラフはこんなものじゃ死なない。身体を焼き尽くして灰にするくらいでなければ安心出来ない。僕は虹色の翅で上空に飛び、大鎌を大きく構えた。
「ぎゃああああ! 助けてくださぃぃぃー!」
突然、空から男性の悲鳴が轟いた。
見上げると、ゴリアテの底からワイヤーが垂らされ、その先に人間が吊るされている。中年の男性だ。軍服を着ている。何故、軍人がゴリアテから吊るされているんだ?
その時だった。顔だけになったピエロが大口を開けて飛びかかってきた。
速い。
でも、もうピエロのスピードにも慣れた。僕は大鎌を振り、バッターボックスに立った野球選手のようにピエロの首を打ち返した。
ピエロの首は隕石のように地面に激突する。そして、間髪入れず地面にめり込んだピエロの顔を潰す——
おっと、今度はピエロの胴体が飛んできたぞ。何度来ても同じだ。胴体も打ち返し、頭ごと粉々にしてやる。
「えっ?」
しかし、胴体は僕に向かって来なかった。胴体が飛んで行った方向は、ゴリアテから吊るされた男性の方だった。
いけない、奴は人間を襲う気だ。
「やめろ!」
僕はすぐに胴体の後を追った。
大丈夫、すぐに追いつける。
もう、誰も殺させはしない。
僕は大鎌を振りかぶりピエロの胴体を——
あ、しまっ——
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