6*小説に出てくるような純粋無垢な美少女
こんな限られた空間と人間関係の中で生活しているのに、彼女達の話題は尽きなかった。
理想の男性を語る恋バナ、僕の性癖についての議論、イシガミ博士のカツラ説、ラスクさんとチョココさんはデキてる説、と色々語られた。
次第に、議題は僕たちの将来の話になった。
「外に出られるわけないでしょ。外の人間はあたし達の事を化け物だと思ってる」
そう言ったのは、いちばん外の世界に憧れているであろうプルメリアだった。
「そうですね。イシガミ博士やキョウコさん、ラスク右大臣などよく知っている人ならともかく、他の方達はわたし達の事を恐れています。軍備部に至っては、敵視さえしているくらいですから」
ウメが悲しそうな顔で言う。
それは、ウメの言う通りだった。強大な力を持つ得体の知れない人造人間は、人間からしたら脅威以外の何物でもない。用が済んだら、さっさと始末したい筈だ。あ、ちなみにキョウコさんというのはイシガミ博士の奥さんである。イシガミ博士とは正反対のタイプで、姉御肌でしっかりしていて優しい女性だ。
「えぇー、誰の為に頑張って訓練やめんどくさいテストやってると思ってんのさぁ! あの腐れハゲー! 頭引っ叩いてやる!」
ダリアが言った腐れハゲと言うのは、ガンドール帝国軍備部の総司令官ライネス氏の事である。軍備部のトップだ。このハゲが僕たちコダマを目の敵のようにしている。ちなみに、ライネス氏はそこまでハゲてないぞ。
「どーでもええよ。うちは静かに昼寝出来る場所があれば」
確かに昼寝は気持ちいいもんな。
しかし、13歳の少女達が語る将来にしてはちょっと夢が無さすぎないか? 僕達でも、夢くらいは自由に見てもいいでしょう?
「みんな、知ってるか? 」
気がつくと、僕は話していた。
「知らない」
「まだ話してないだろ」
「これは、イシガミ博士が僕に教えてくれた話しなんだけど。この世界の果てに、イデアルと呼ばれる理想郷があるんだ」
「理想郷ですか」
「おもしろそー! どんな場所なん? 」
「そこでは、人間同士はもちろん、動物や昆虫でさえ互いの存在を尊重し合い生きているんだ。決して無益な争いごとなどしない。助け合い、支え合いながら生きている。自然には四季があり美しく、肥沃な大地は豊富な作物を与えてくれる」
「野菜や果物は食べ放題だけど、肉は食えないってこと?」
「そういう細かいツッコミはなしでお願いします……」
「その
ウメが優しい笑顔で言った。他のメンバーみたいにひねくれてないところが大好きだウメ。
「あぁ。単なる兵器としてではなく、ひとつの生命として認めてもらえるんだ。それだけで、どんなに幸せだろうな」
まぁ、実際にそんな場所があるのかなんて分からないけど、そんな場所でこの弌式のメンバーと暮らせたら幸せだろうな。そのくらいの夢は見させてもらいたいものだ。
「ったく、そんな世界あるわけないだろー!」
そう言って、プルメリアは僕の背中を酔っ払ったオヤジのように叩いた。
「夢見る少女かよー! キャハハハ!」
「現実を見ろ、現実を」
早速全否定されました。
はいはい、分かってますよーだ。
ちぇっ、少しでもみんなを慰めようと思って言ったのになぁ。
「でも、素敵ですね。理想郷、行ってみたいです」
ありがとう、ウメ。君だけはずっと僕の味方でいてくれよ。
「あぁ。いつかみんなで行こう、理想郷に」
そんな場所に、みんなで行けたらいいな。
「サクラ、どうせその理想郷に行ってハーレムを作るのが目的でしょ? このエロ魔神が!」
プルメリア、君はもう少し純粋な目で僕を見てくれないのかい?
「絶対そうだわー。ダリアたちじゃ飽き足らず、外の世界の女にも手を出すつもりだ! ヤラシー!」
「そうなんですか、サクラさん……」
ウメは、満員電車で女子高生に痴漢を働いたしょうもないおっさんを見るような目で僕を見て言った。
「ちがーう!!! 」
「ふぁ〜、眠い」
その後も、彼女達の下ネタトークは続いた。
女子が集まると、えげつない下ネタが繰り広げられる。小説に出てくるような純粋無垢な美少女というのは、もしかしたら都市伝説なのかもしれない。
こんな下ネタを話している時でさえ、愛おしく思える瞬間がある。
恐らく、近いうちに僕たちは処分される。
産業廃棄物として捨てられる。
この短かった生涯の中で、みんなと一緒に笑っていられる時間は、僕にとってかけがえのないものなのだ。
それだけで、僕は幸せだ。
というかお前達、そろそろ寝ないとさすがに明日のテストに差し支えるぞ。
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