39*無限に続くような闇



 洗濯がひと段落すると、リビングに戻り、みんなで紅茶を飲んだ。キョウコはストレートで、プルメリア達はミルクを入れて飲んだ。紅茶を飲みながら、プルメリアはこれまでの経緯をキョウコに話した。


「サクラの事は許せないね」


 キョウコはゆっくりとティーカップを置いた。カップとソーサーが触れ、鋭い音が響いた。


「ゼーラフの開発だって、あの人が必死になって阻止したのに極秘に開発してたなんて、信じられない。軍備部のハゲ、とてつもなく悪い事企んでるよ。ラオム・アルプトの件も、何かおかしい」


 軍備部のハゲとは、総司令官のライネスの事である。


「まさか、ラオム・アルプトも軍備部が仕組んだ事だと」


 ウメが聞いた。キョウコはテーブルの上で手を組み、鋭い瞳で一点を見つめている。


「あるいは、知っていたか。でもそれはないかなぁ。さすがにあの化け物を操るなんて事は……。とりあえず、またラオム・アルプトが出現するかもしれないって事は脅威だから、それも含めてアポロさんに報告しようか」


「お願いします」


 プルメリア達は頭を下げた。


「それと、この件の原因が何であれ、とりあえずあんた達は狙われてる。知ってると思うけど、ガンドールの人間はクソ野郎ばっかりだ。今のところは、アポロさんとラスク以外は信じちゃいけないよ」


 キョウコが言うと、みんな返事をした。


 そうだ。誰も信じる事など出来ない。あたし達の居場所なんて、何処にもないのだから。


「だから、アポロさんが安全に保護してくれるまでは、ここに隠れてなさい」


「お母さん、いいの?」


 ここにいて、いい?


「もちろんよ。あんた達は、私の大切な子供達なんだから」


 そう言って、キョウコは微笑んだ。


「でも、わたし達が一緒にいると迷惑をかけてしまうかもしれません。軍備部に見つかったら、わたし達を匿っていたお母さんも罰せられてしまうでしょう」


「まぁ、そうなるかもね。確かに、あんた達は軍人を殺した。人の命を奪った事の代償は、払わなければならない。でも、何故そんな事になったのか、明らかにする必要はある。あんた達が一方的に悪者扱いされて罰せられるのなんて、私は許せない。全てが明らかになってから、罪を償っていきましょう。その時まで、私があんた達を守る。だからもう少し、我慢して一緒に戦いましょう。大丈夫、分かってくれる人はいる」


 キョウコの言葉で、プルメリア達の心に一筋の光が射した。それは、パンドラの箱の底に残された唯一の光、『希望』のようなものだった。


「ありがとう、お母さん……」




 あたし達が歩いている真っ暗なトンネルに、出口などないと思っていた。


 どこまで歩いても、真っ暗な闇が続くと思っていた。


 しかし、この無限に続くような闇にも終わりがあった。


 今、目の前に小さな光が見えた。


 あたし達は、その光に手を伸ばす。





「とりあえず、暫くの間あんた達はここで大人しくしていること」


 キョウコは右手の人差し指を立て、反対の手を腰に当てて言った。


「はい」



 プルメリア達は、静かに頷いた、



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